教室の後ろの扉に…
投稿者:ジョンガリ (8)
そして俺は、遠巻きに見た彼女のズック(上履き)が、俺たちの履いているズックとモデルが違うことに気がついて戸惑った。
イモ女は、俺の戸惑いに別に興味もないといった風に踵を返して歩き出して、廊下の角を曲がった。
不思議なことに、曲がった先の窓にイモ女の姿は写っていなかった。
雨粒で光が屈折したからよく見えなかったんだとか、イモ女と俺との間に結果として窓が二枚重なっていたからよく見えなかったんだ等と自分に言い聞かせていたが、俺は湿気や暑さからくる汗とはまた別の汗をかいていた。
ふと背後に気配を感じた。
まさか、イモ女か!?と思ったが、じんわりと恐怖が心に滲み出してなかなか振り返れない。
それでも意を決して振り返った。
イモ女はそこには居なかった。
代わりに、鬼のような形相をした古典の先生が立っていた。
先生は一通り俺の不真面目さをなじった後、
「ジョンガリくんはやる気がないなら帰れって言うと、ホントに帰っちゃう子だから、この補習には最後までちゃんと居てもらいます!」とやや芝居染みた口調で言っていた。
実際、そう言われたら俺なら本当に帰っちゃうだろうなと思った。だって補習だし
先生は「補習にはちゃんと居てもらいます。ただし、他の皆とは別に君には特別な課題を設けます!」と告げた。
教室の皆が堪えきれずクツクツと笑い始めた。
それからの俺は、バッコリと空いていた先生の前の席に移され、背中に感じる同級生の同情と笑いの視線に耐えてなんとか補習をやり過ごした後、教室に残っていた補習仲間にこれでもかとイジり倒された末、職員室に赴き、古典の先生からセンター試験の過去問らしきものを渡されて、今週末までに現代訳と完璧な解答になるまで調べてこいという課題、というか無理難題を言い渡されたのだった。
次の日の放課後、
部室に赴いた俺は、顧問であり現国の教師であるタヌキチ先生(アダ名)の協力を仰ぎ、昨日渡された課題に取り組んでいたのだった。
タヌキチは、部の伝統に背いて理系に走った俺をニヤニヤしながらイジりつつもとても解りやすく教えてくれた。
課題に飽きた俺は、ふと気まぐれを起こして昨日見たイモ女の事をタヌキチに語ってみた。
タヌキチは、オカルト話には別段興味は無いという感じで聞いていたが、制服とズックのくだりを喋ると少しだけ驚いた顔をしていた。
俺が昨日見たイモ女のズックは、今、俺たち世代が履いているズックとはモデルがまるで違い、スリッパタイプのズックだった。
タヌキチによると、俺たちの前のモデルがそのスリッパタイプのズックで、その頃に制服や指定カバンのモデルも共に一新されたとの事であった。
ちなみにタヌキチが赴任してから制服などのモデルが変わったのはその一回だけだそうだ。
俺は制服のモデル云々で引っ掛かるものを感じた、その前のモデルの制服ってもしかして…と思いタヌキチに聞いてみた。
俺の予想通り、ピンクになる前のブレザーの色は深紅のブレザーだったとの事であった。
我が校の吹奏楽部は歴史の長い部であるため、コンクールに出る時に前のモデルに似せた色の制服をコスチュームとして着るんだ、とタヌキチは教えてくれた。
その時、俺は物理の先生が話してくれた怪談を思い出していた。
先生が襟を引っ張られたのは2-6、俺の教室は2-8でなんの関係もない様に思えたが、今と昔では学校の体制が違う。
というのも、今は1組2組はスポーツクラスになっていて1年から3年までの計6クラスはC校舎に纏められていたのだった。
高齢の物理の先生の言う”大昔”がどれほど昔かは詳しく聞いては居なかったのだが、タヌキチ曰くスポーツクラスが出来たのはここ十数年とのことであった。
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