まず目に飛び込んできたのは、縦に伸びる二本の棒だった。
その棒が宙に浮いている。
なぜ、棒が浮いている? そう思った僕だったが、改めて見直して、愕然とした。
それは、人の足だった。人の足が、宙に浮いている。いや、足だけじゃない。
カトウさんが、明かりをさらに上の方に向ける。
そこには、人がいた。
だらしなく手足をダラリと垂らし、首も不自然なほどに斜めになっている。
誰も口を開かない。
カトウさんの照らす光が、さらに上に向かう。
首のあたりから、一本の線が上に伸びている。
違う。あれは、縄だ。縄が首にかかっているんだ。
…首を、吊っているんだ。
僕は愕然としたまま、周囲の人間を見渡す。
目を見開き、室内を凝視しているものもいる。
口に手をあて、身動き一つとらないものもいる。
ただ、皆、一様に、愕然としている事が解る。
カトウさんの明かりが、首を吊る人物の顔の辺りを照らす。
最初は誰だかわからなかった。
赤黒く濁った眼を見開き、口からは蛭のような毒々しい舌が落ち、顔ははち切れんばかりに不自然に膨らんでいる。
その顔に血の気は全くない。
一目で死んでいると解る。
マナミさんが、僕の隣で呟く。
「監督…。」
そう。あれは、監督の首吊り死体だ。
僕は、室内の臭気に気付く。嫌な匂いだ。何かが腐ったような…。
監督の死体の下方の床には、黒いシミがあった。
おそらく、あれは監督の糞尿だろう。あれが異臭の元なのか…。
皆が微動だにしない中、カトウさんは、明かりを部屋の隅や壁に向ける。
ふと、壁を照らす光の円が止まる。
僕は、カトウさんの顔を覗き見る。
カトウさんは、壁を凝視したまま、震えていた。
僕らは、カトウさんの照らす壁に向かって眼を凝らす。
そこには、文字が書いてあった。
『 死 ね 』
「ひゅ!」
誰かが息を飲む音が聞こえた。
懐中電灯を持つカトウさん以外の人も、恐る恐る、壁を照らす。
そこには、様々な醜い言葉が所狭しとびっしりと書き込まれている。

























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