金縛り

とは言うもののバイトの時間も差し迫っているので
このままというのも困る
いつになったら解けるのか少し心配になってきた
座椅子を倒し、仰向けの状態
視野は天井の一点を見つめていた
視界の下、足元に何かが有る。……いる。

その何かは少しずつ私の視界に寄って来ている様だ
手は紫を帯びた黒色をしていたと思う。
その手がよじ登るかのように
視界に入る度にその何かの頭も私の方へとやって来る。
嫌な予感しかしない、このまま来たらにらめっこは免れない、どうにか動こうにも全く動かない
まるで身体全体が硬化しているようだ
何かが胸の辺りまで来た頃に髪が長いと言う事が解った。

少しどんな顔なのか気になり始める。

何かの頭は鼻先まで来ていた。
次に動いた時、どんな顔なのか拝めるぞ
そんな良く分からない期待を持ちながらも
内心では
情けなく叫んだり、気を失ったらカッコ悪いなとか
若干怖気づいていた。
金縛りなのに怖気づくと言うのもなんだが
まぁそんなこんなでその時はきた

真っ黒だった
性格には長い髪に覆われ、尚且つ影になって余計見えない
その長い髪は次第に束になり垂れ下がってくる
同時にその顔が鮮明になる。その素顔は

隣人のオジさんだった…
落胆した、心底落胆した

金縛りにあって長い事下からよじ登るのを待ってこれか、沸々と怒りがこみあげる
オジさんの顔が近づいて来ている…
いや、間違いなく近づいて来ている
ちょっと待て、フェイストゥフェイスなんですよ
オジさん
位置的にも非常に不味い、結果として色んな意味で不味いはずだ
しかし拒む事が出来ない、
全く動かない
だがしかし譲れないものが有った
奪われてはいけない、守らなきゃいけないものがあった。
全力で握りしめた拳をオジさんに放った
つもりだった。