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妖怪・風習・伝奇

洒落骨カルさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

君が見た夢
長編 2025/03/23 18:14 2,020view
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「また来るよ、雪乃」

まともに雪乃の顔を見られなかった。最近はこんな日がずっと続いている。

甘い夢は慰めでもあり、劇薬でもある。こんなことではいけない。

俺は、もっとちゃんと、雪乃と向き合わなくては。現実から逃げる事は、出来ないのだから。

「……ただいま」

扉を閉める音が妙に響く。誰も待っていない家に帰るのも、大分慣れた。

「そういえば、何か書類が必要とか言ってたな」

雪乃の入院以降、様々な手続きに追われていた。こうした現実的な雑務をこなしていると、雪乃の事も夢の事も忘れられる。

「こういうことは、全部雪乃に任せっきりだったからなあ」

苦笑いしながら、心当たりの引き出しをあらためる。

が、目当ての書類は一向に見つからない。こうなると「そんなところにあるはずないのに」と思いつつ、家じゅうの収納という収納をひっくり返すことになる。

寝室にある雪乃の化粧台も例外ではない。

その引き出しの中には、小さな紙袋が入っていた。

何となく高級そうな雰囲気がある。恐らく何かブランドのものだ。

そのブランドロゴは、俺のこれまでの人生では全くなじみがないものだった。しかし、俺は、それをよく知っている。

あの感覚がよみがえる

現実が浸食されていく、あの薄暗い感覚。

「俺は、何を考えている」

自分でもバカバカしいと思う。まだ、夢と現実の区別は付いている。俺は今、現実の世界を生きている、はずだ。

紙袋の中には、メッセージカードが入っていた。そうだ。そこには俺の名前が書いてあるはずで、これは雪乃が用意した、俺へのプレゼントに違いないんだ。

カードをゆっくり開く。指先が震える。この震える指は俺の指だ、他の誰のものでもない!

——————————————————————————

「ねえ、きいてる?葉介君」

「え?」

「聞いてなかったでしょ?」

「君は、美咲、か?」

「何言ってるの?」

「……違う、君は美咲じゃない。これはただの夢じゃない。僕は……俺は葉介じゃない!」

「葉介君?大丈夫?」

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