ある実話怪談系の作家さんが言ってました。
「こんな変な夢を見た、こんな怖い夢を見た。という話は怪談にはならない」
確かにその通りだと思います。
この話も多分ただ怖い夢を見ただけです。だけど、私にとって今までの人生の中でも三本の指に入るくらいゾッとした体験なので書いてしまいます。
私が公務員の官舎に住んでいた時のことです。昭和に建てられた団地のような造りの建物です。
ある朝、まだ夜が明けきっておらず薄暗いうちに目が覚めました。枕元の目覚まし時計を見ると普段起きるよりも一時間以上も前。もうひと眠りしようと思っていると、窓の外から子供が二人はしゃいでいるような声が聞こえてきました。
(朝から子供は元気だなぁ。でも今は眠りたいから静かにしてほしいなぁ)
なんて思いながら目を閉じたんですが、ふと気になりました。
(まだ薄暗いこんな時間、子供が遊んでたりするのか?)
その瞬間、急に体が動かせなくなりました。いわゆる金縛りというやつです。寝直すこともできないでいるうちに、子供たちの声が移動しているのが感じられました。その時寝ていたのは住んでいた建物の裏手に面した部屋だったんですが、子供たちは裏から正面に回っています。
(もしかして、この建物に入って来ようとしているのか?)
思ったとおり、入り口を通って階段を上がってくるのがわかります。その頃になると、子供たちは声を出してはいませんでした。ただ、気配だけで位置がわかります。辺りが静まり返っている早朝とはいえ、どうして見てもいないのに感じられたのかは今思い返してもわかりません。でもその時ははっきりとどう移動しているかがわかりました。しかも、ただの子供ではなく何かとても恐ろしいものだ、というのが本能的に感じられます。これに近づかれてはいけない、そんな危機感がどんどん高まっていきます。そして子供たちの気配は私の部屋の扉の前まで来ました。
(鍵がかかっているから入って来られるはずがない)
しかし、気配は玄関を通り抜けて寝室のふすまの前まで来ています。何か得体の知れない、だけどはっきりと邪悪だと感じられるものが間にふすま一枚しかない場所にいる。その瞬間恐怖が最大まで高まりました。
「来るな!!」
気づくとそう叫んでいました。その瞬間金縛りも解けました。同時に寝室のふすまの前に感じていた気配も消えました。
(あー、怖い夢を見たな)
その時は悪夢を見たんだと思っていました。
しばらくは恐怖の余韻が残っていましたが、決定的な何かを見てしまう前に目が覚めたことに感謝して、寝直す気分でもなくなっていたので朝食を摂って出勤しました。
さて、上にも書きましたがその時住んでいたのは公務員の官舎でした。なので、同じ建物には同僚が住んでいます。仕事をしていると、同僚同士の会話が聞こえてきました。その中で同じ官舎に住んでいるⅠさんの発言が耳に入りました。
「いやー、今朝は朝から子供の声がうるさかったな」
え、夢じゃなかった!?
この瞬間、心底ゾッとしました。
ただの夢のはずだったあの声が他の住人にも聞こえていた、つまりあの邪悪な気配も現実のモノだった?
…いや、冷静に考えればやっぱり夢だったんです。
早朝に子供が遊んでいたというのはⅠさんも聞いているから事実なんでしょう。でも、その後のことは二度寝した私に子供の声の印象が残っていたので見てしまった夢だった、と考えればつじつまが合います。
だけど、あの「夢じゃなかった」と実感した時の恐怖感は10年以上たった今でもたまに思い出すほどのものでした。
さて、未だに納得できていないことが一つあります。
職場で私はこんな怖いことがあった多くの人に話したんですが、同じ官舎に住んでいる同僚は子供の声なんか気づかなかったといいます。結局子供の声を聞いたのは私とⅠさんだけでした。
そしてそれから数か月たったある日、Ⅰさんが同僚に話しているのがなんとなく耳に入りました。
「おれ、けっこう霊感あって、しょっちゅういろんなものが見えるんだよな」
ということは、もしかして…?
怖…😨