これは数年前に友人の佐々木から聞いた話。
佐々木が大学3年生の時、友人の村田からお願いがあると言われ、「どうした?」と尋ねると村田は、
「いやー、突然で悪いんだけど今日ちょっと付き合ってくれないか?」
と神妙な顔で佐々木に言った。
佐々木は正直、お金の頼み事や女性関連のことを相談されると思っていただけに、付き合うくらいならと気が楽になっていた。
「なんだ。そんなことか。どこかに行くのか?合コンとかか?」と佐々木は少しふざけて返事をしたが村田は相変わらず冴えない顔で、
「いやー、合コンとかではない。ちょっと知り合いのアパートに一緒についてきてほしいんだ…」
「別にいいけど…俺が一緒でも大丈夫なのか?」
「ああ。俺1人ではとても行ける気がしないからさ…」
佐々木は村田の様子を見て、訳ありな感じがしたので頼まれことを了承することにした。
詳しく聞くと、どうやら村田の先輩で最近、姿を見せなくなったので他の先輩達が心配になり、様子を見てきてほしいと頼まれたらしい。
「なんで他の先輩達は行かないでお前に頼むんだよ?」
「他の先輩達も心配になって、アパートを訪れたんだ。だけど、みんなもう2度と行きたくないって口を揃えて言っててさ…で、後輩の俺に様子を見てきてほしいって言われたわけ。」
「なんで2度と行きたくないんだよ。その先輩達の友人だろ?心配なら頻繁に行けばいいのに。」
村田は少し頷きながら、
「そうなんだけどさ…ちょっとな…」
と詳しいことを言わないので、
「一緒に行くんだぞ?教えてくれてもいいだろ。」と村田に言った。
少し考え込むと、
「そうだよな。わかった。実はさ、今から会いに行く先輩の名前は葛西さんって言う人で昔から可愛がってもらってる先輩なんだ。その葛西さんと葛西さんの友人数人と俺で2週間前に肝試しに行ったんだよ。事故物件ってやつ。その日以来、葛西さん、部屋から出なくなっちゃってさ…。」
村田は続けて、
「肝試ししてから何日かして他の先輩が様子を見に行ったんだけど、葛西さんの様子が少しおかしくて、それっきり行こうとしないんだよ…」
「肝試しに行って、何かに取り憑かれたってこと?」
「わからない。もし、そうだったとしたらお祓いとかに連れて行きたいんだけど…そのためにも様子を見に行きたいんだよな…俺も先輩達から話を聞いてるから正直行きたくないんだけど…」
佐々木は思っていたよりも事が大きそうなので村田の頼み事を了承したことを少し後悔した。
夕方になり、葛西さんに差し入れを買い、アパートに向かっている道中で肝試しの時の状況を聞きながら移動していた。
「肝試しに行った場所は、3人家族で子供が両親を殺害して自分も自殺した部屋らしいんだ。そのアパートはもう何年も前から使われていなくて建物だけ残されている。先輩達と飲んでいたらそういう話になって、その場所のことが話題になり、行く流れになって…
で、先輩達と俺と大体5人くらいでその場所に行ったんだよ。葛西さんが先頭で部屋に入ってその後ろを俺と他の先輩達で歩いていたんだ。
そして、奥にある部屋に葛西さんが入った瞬間から立ち止まってさ、突然後ろを向いて俺達の方を見たら突然、「帰れ!帰れ!帰れ!」って言い始めてさ。俺も含めた4人は固まってさ。他の先輩達がどうした?って聞いても、「帰れ!帰れ!帰れ!」しか葛西さん言わなくて…」
「えっ?それ、ヤバくね?」
「全員ヤバイと思った。けど、葛西さんは部屋から出てこないし、ずっと帰れ!帰れ!しか言わないし…次第に怖くなってきてさ…4人でアパートを出て帰宅したんだ。次の日、他の先輩が葛西さんに連絡したら返事きた。って聞いたから安心していたんだけど…」
「その日からおかしくなったと…」
村田は頷き、黙りこんでしまった。
しばらく歩き、葛西さんが住んでいるアパートが見えてきた。
「あそこの2階だ。」
村田と部屋の前に行くとドアには新聞が何日分も挟まっているのを見て、引きこもりになっているというのは本当だと佐々木はその時思った。
部屋の前に行き、溜まっている新聞を取り、チャイムのボタンを押した。
しかし、中からチャイムの音は聞こえてこなかった。
「葛西さーん!村田です!」
村田の呼びかけに対して返事はない。
ドアノブを回すと鍵がかかっていなかったので少し開いた。
「葛西さん!入りますねー!」
そう呼びかけ、ドアを開けた。
部屋の奥に座っている人影が見え、
「葛西さん!村田です!」
村田が呼びかけるとようやくこちらに気づき、
「お、おう。お前か。」
佐々木はとりあえず一安心した。村田のこともわかっているようだし、会話も成立してるからだ。
「みんな心配してますよ。これ!買ってきたので食べてくださいね!」
村田は買ってきた食べ物や飲み物を差し出した。それに対して葛西さんは、
「おー。悪いな。わざわざ」
と言い、立ち上がり、こちらに向かってくる。
佐々木は村田の後ろから様子を見ていたが、葛西さんがこちらに向かってくるのを見て、違和感を感じていた。
村田や佐々木の方を見ず、ずっと入り口脇にある窓を見ている。
村田と佐々木の前に葛西さんが来て、
「そいつは?」と村田に尋ねると、「友人です。付き合ってもらったんです。」と説明した。
その間もずっと窓を見ている。
「佐々木です。はじめまして。」と簡単に挨拶をし、「そうか。悪いな。こんなとこまで来てもらって。」
話をしている感じだと、特に変なとこはない。ただ、視線はずっと同じ場所から離れていない。
その様子に少し不気味さを感じていた佐々木は用事も済ませたし早く帰りたかった。しかし、村田が、「とりあえず、元気そうでよかったです。学校には来ないんですか?みんな心配してますよ。」と伝えると、
「ああ、行きたいんだけど、行けないな。」
「何かありました?」と聞いた。
佐々木はその瞬間、深く聞き込みするなと思い、村田の方を見ていた。
「ここじゃなんだし、上がれよ。」
と葛西さんは私達を部屋に招き入れた。
無理矢理でもここは村田に断ってほしかった。適当な言い訳をして帰れるチャンスだと佐々木は思っていた。
村田は少し躊躇いながら、
「じゃ、じゃあ、少しだけ…」
佐々木をチラッと見た表情は、すまない。という表情をしている。
部屋の真ん中にあるテーブルを囲うように座り、葛西さんはゆっくりと話始めた。
「肝試しに行った時のこと覚えているか?」
村田は小さく頷いた。
「あの時、先頭だった俺は奥の部屋に入った瞬間、体が動かなくなった。鳥肌が全身からたつような感じ。俺、霊感無いけど、ヤバイと瞬時に感じた。なんとか後ろを振り向いて、部屋を出ようとしたら見ちゃったんだ…」
村田と佐々木は核心をつく話をされると思い、覚悟を決めた。
「振り向いた先。お前らの後ろを女が通り過ぎているのを。何回も俺らが入った部屋の入り口を右から左、左から右。って何往復もしていた。それを見た瞬間、「ああ、これはヤバイな」と再確認した。お前らは女に気づいていないようだったから、もしかしたら俺だけ見えてるかもと思って、帰れって叫んだんだ…」
その場所に居合わせた村田は顔面蒼白になりながら葛西さんの話を聞いていた。
「お前らが出て行ってから、俺はどうすることもできなかった。ただ、女が右、左、右、左って動いてるのを見てるしかなかった。どのくらいの時間が経ったかわからないけど、このままじゃラチがあかないと思って思い切って入り口の方に走って行こうとした。その瞬間…」
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。