私の家にはテレビがない。
スマホやパソコンはあるのでテレビ番組を見ようと思えば見れる。ただ、テレビだけがない。
私が幼い頃、テレビは普通にあり、みんなで野球を見たり、相撲を見たりしていた。
しかし、突然、家中のテレビがある日を境に全て捨てられた。
幼かった私は大好きだった戦隊シリーズのビデオが見れなくなり泣いていたそうだ。
小学生になり、テレビのないことに違和感を感じ始めた私は祖父に聞くことにした。
「ねぇ、なんで、ウチはテレビないの?昔はあったよね?」
「ん?ああ…理由は知らなくていい。」と何も教えてくれなかった。
私が中学に上がるあたりに祖父が亡くなった。
祖母と両親、妹の5人家族になった。
祖父が亡くなり、数週間ほど経った頃、私はテレビを買おうと家族に伝えた。
「テレビ買おう。じいちゃんいる時はダメだったけど、これからはいいでしょ?」
妹も同意し、両親に強く懇願した。
両親は祖母の判断に任せると言ったので、
「ばあちゃん!テレビ買っていいよね?」
優しかった祖母なら快諾してくれると思っていた。
「テレビ?ダメ!ダメ!いらない!あんな気持ち悪いもの!」
予想外の返答で少し驚いた。
「気持ち悪いって何が?」
その後、祖母は返事をしてくれず、テレビを買う話は終わった。
幸いにも、番組を見る方法はあったので我慢して生活していた。
私が高校の頃、祖母が少しずつ認知症が酷くなってきた。
ある日、リビングに祖母と妹と3人でいる時のこと。
私と妹はスマホをいじっていると、静かだった祖母が、
「あれ?テレビは?」と呟いた。
私はまたボケたか…と思いつつ、
「ウチには昔からテレビないでしょ!買おうって言ったのにダメだってばあちゃんが言ったんだよ!」
「ダメって言ってないよ。」
私は半分呆れながら妹と目を合わせた。
そして、何か思い出しかのように祖母が話始めた。
「テレビにオバケ映るからねー怖いよねー」
私達は聞き流していた。
「じいさんと2人で相撲観てたら、あの女いたもんねー。怖かったー。」
スマホをいじっていた手を止め、
「何それ?女の人のオバケって?」
「座ってずーっとこっちを見てたの。じいさんの前の奥さん。死んだはずなんだけどね…」
私と妹は驚いた。祖父に前の奥さんがいたなんて知らなかった。
しかし、まだ完全に信じきれていない自分がいた。また、わけのわからないことを言っているのではないか。という思いが僅かながらに残っていた。
しかし、認知症が進んでいるとはいえ、昔のことは良く覚えていて、話を聞かされていた。
なので、本当かも…という気持ちもあった。
「じいちゃんと相撲観てたら、観客席に前の奥さんがいたの?」
祖母は頷いた。
「じーっと恨めしそうにこっちを観ていたからすぐにテレビを消したの。あんたはその時、寝てたからね。観てなくてよかった。よかった。」
寝て無くって良かったった?そこ起きてなくって良かった!では?