俺はある地方の古びたアパートに住んでいる。家賃が異様に安いのは、まあ察しの通り、曰く付きの物件だからだ。でも、俺は幽霊なんか信じていないし、何かあっても科学的に説明できるはずだと思っていた。
そんなある日、仕事が遅くなり、深夜に帰宅した。玄関のドアを開けた瞬間、背筋がぞわっとした。部屋の中に、誰かの気配がする。
慎重に電気をつけると、異変はなかった。何も荒らされた形跡もないし、窓も施錠されている。でも、どこか違和感があった。俺はそのままシャワーを浴び、ベッドに横になった。
夜中、ふと目が覚めた。部屋が異様に静かで、空気が重い。暗闇の中、天井を見上げると、何かがいる。
黒い影が、天井に貼り付いていた。
それは人の形をしているが、顔はのっぺらぼう。ゆっくりと首を傾けるように動き、俺をじっと見下ろしている。
金縛りにあったように体が動かない。目だけを動かして必死に視線をそらそうとしたが、どこを見ても天井に黒い影がいる。
「見ている」
頭の中に直接響くような声がした。ぞわりと全身に寒気が走る。次の瞬間、その影は天井から滑るように落ちてきた。
俺は反射的に叫んだ。しかし、その瞬間、意識が途切れ、気がつくと朝になっていた。部屋はいつもと変わらない。だが、天井の隅には無数の黒い手形がこびりついていた。
怖くなってすぐに部屋を引き払ったが、後日、大家からこんなことを聞かされた。
「前の住人?あぁ、あの部屋の人は…ずっと何かを見ていたんだよ。誰もいない天井をな。」
俺は言葉を失った。思い出したくもないが、今でも時々、夢に出る。あの黒い影が。
そして必ず、こう囁くのだ。
「見ている」

























うつりかわり?