支那からのアンティーク電話
投稿者:ねこじろう (157)
結局その日じいちゃんが帰って来ることはなく、翌朝から家族総出で日の暮れる位まで集落や裏山を探したが見当たらなかった。
後から両親にじいちゃんのことを聞かれたので家を出掛けるまでの一部始終を話すと、父は急に顔色を変え「じいちゃんがあの電話を出したのか!?」と言ってから絶句していた。
そしてあの電話にまつわる忌まわしい話をしてくれた。
元々あの電話は、じいちゃんがまだ若い頃中国に旅行に行った時、町の骨董屋の店頭にあったものらしい。
その時店主はこう言ったそうだ。
━この電話は天界と繋がっている。
それはそれはありがたい代物だ。
大事に扱ってあげると、いづれベルが鳴るはずだ。
そして受話器を耳にあてると、あなたの会いたいと思っている人と話すことが出来、会うことが出来る。
ただそれは鑑賞用で最初から壊れて使えないものだったそうだ。
アンティーク好きのじいちゃんは店主の言葉に魅了され、電話を買う。
じいちゃんはそれをすごく気に入っていたようで、仏壇前の台に置いた。
それから事あるごとにそれに話しかけたり布切れで磨いたり、ただ眩しげに眺めたりしていたらしい。
そしてある日の日中のこと。
突然電話が鳴り出したそうだ。
その時家にはまだ小学生の父と母親しかいなかったらしい。
訝しげに思った母親は恐々電話にでる。
それから彼女は誰かとしばらく話した後、書き置きを残して家を出ていき二度と帰ってくることはなかったそうだ。
その時母親がまるで少女のようにはしゃぎながら両手を上げて出ていった姿を、父は今も思い出すという。
紙には「今から天国の母に会いに行きます」と書かれていたらしい。
その後、数ヶ月して裏山の林の中で母親が見つかったそうだ。
既に亡くなっていたらしい。
そんなことがあったものだから、じいちゃんは電話を桐の箱に入れると厳重に荒縄で縛り、蓋の表には「忌」という紙を貼ったそうだ。
こんなもの捨てようよという家族の意見に対して父は、こんな神通力のある電話なのだから捨てようものなら何かの祟りがあるかもしれんと、封印して裏庭にある納屋の奥にしまったらしい。
認知症のじいちゃんはその時の記憶を完全に失っていたみたいだった。
それからさらに父は俺に尋ねた。
「その時じいちゃんは誰と話しとったとね?」
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