ドリームボックス3.0
投稿者:kana (217)
大きな金属音に驚いた近隣住民が窓を開け、その方向を見る。階段の下、折れた手すりと共に男が一人横たわっていた。頭の辺りからはドクドクと血が大量に流れ始めていた。
徐々に広がる血だまりの中に、一匹の黒い子犬がたたずんでいた。
気のせいだろうか、子犬は血の吹き出す男の頭を舐めているようにも見えた。
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「健康食品」を扱う店の店主は、フイに訪れてきた小汚い男から、子犬を一匹買い上げた。子犬は小さなケージにしまい込み、店の奥に置いておいた。電話をすれば犬肉処理業者がすぐに飛んでくるはずだ。
店主はケージ越しに子犬の顔を眺めてみた。熊のように丸々と太った子犬だ。口の周りに血の跡のようなものが見えるが、店主は気にしないことにした。どうせもうすぐ死ぬ犬である。
やがて店を訪ねて来た業者に、店主は子犬のケージごと渡した。代わりに新しい空のケージをもらい受けた。
犬を回収してまわったトラックは、やがて郊外にある辺鄙な場所へと到着した。
そこには犬肉処理工場があった。
近くに行くとひっきりなしに犬たちのおびえる泣き声がする。死臭も漂っていた。
工場の扉は、地獄の扉だったのかもしれない。
回収された犬のケージが次々と中に入れられる。あの黒い子犬もそこに並んだ。
工場には多くの犬が生きたままケージに入れられ、並べられていた。
多くはペットショップ用に作られ過ぎて余った子犬や、店で売れ残って大きくなってしまった犬たちだった。先日まではキレイに毛並みを整えられ、餌も水も与えられていたのに、ある日突然地獄の扉を通ってここに連れてこられたというわけだ。
工場の作業員が大きなケージの前に立つ。そこには成犬が何匹か入れられている。
みんなおびえてケージの隅に固まって吠えていた。
作業員は、ケージの上に空いた小さな扉を開けると、そこから棒の先に革製の輪のついた道具を差し込み、泣きわめく1匹のゴールデン・レトリーバーの首にその輪を掛けた。手元で操作すると輪はキュッと絞まり、そのまま力任せに犬を吊り上げケージの外に頭を出させた。
激しく吠えて抵抗する犬だったが、太く長い木の棒が、その頭に力いっぱい振り下ろされると、犬は吠えるのをやめ、舌をだらんとさせ、目はうつろで視線がさまよい、まるで首の骨が折れたようにぐったりと頭をまわした。
それを確認すると、作業員はおもむろに犬をケージから引きずり出し、冷たいコンクリートの床に放り投げた。犬はまだ生きている。体全体が痙攣をおこしている。
作業員は大きなナイフを犬の胸辺りに突き刺した。刃を抜くとドクドクと血が流れた。
床はそんな血を洗い流せるように緑色の防水塗料が塗られ、排水溝もあちこちにあった。
その様子をケージに残っている仲間の犬が目の当たりにしていた。捕まったらあぁなる。
次は自分かもしれない。・・・犬は頭の良い動物である。激しい苦痛と、死が待っていることを知り、恐怖でブルブルと震えだしていた。
別の小さめのケージにはコッカースパニエルがいた。
この犬はまだ人間を友達だと思っているのか、作業員が近ずくと寄ってきて、助けを求めるような瞳で見た。だが、作業員は犬の首に紐をかけると、それを引き、犬をケージの格子まで引き寄せ、胸のあたりにナイフを突き刺した。
初めて体験する激しい痛みに、何が起きているのかわからずただキャンキャンと泣きわめく。
ナイフを抜くと血が噴き出した。作業員はかまわず二度目のナイフを突き刺した。
工場の奥には大きな回転するタライのような金属製の機械があり、内臓を抜いた犬の死体をそこに放り込んでいた。内側にはたくさんの刃が付いており、しばらく回転させていると犬の皮はすっかり剥ぎとられているという。
コッカ―スパニエルを捌いた男は、「次はコイツにしよう」と、黒い子犬に目を付けた。
まるで熊のように丸々と太った黒い子犬。目が金色に輝いている。見ているとまるで吸い込まれそうだ。子犬は生意気にも遠吠えのような真似をして啼いて見せた。作業員は少し不思議に思った。今までここにきてこんなに堂々として吠える犬など見たことがなかったからだ。・・・まぁいい。泣こうが喚こうが関係ない。作業員は黒い子犬の首にひもを結び、引き寄せると胸のあたりにナイフを思いっきり刺し込んだ。
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