ドリームボックス3.0
投稿者:kana (217)
そんなふうにして、6匹の子犬たちは6人の作業員に引き取られ、育てられることになった。
ついさっきまで、何時間もかけて何千という豚を殺してきた反動なのだろうか、皆、いま目の前にある救える命を見捨てることができなかった。それはせめてもの罪滅ぼしだったのかもしれない。
「母犬はここに埋めてやろう」誰かがそう言い、スコップで地面を掘り返して母犬を丁重に葬った。有無を言わさず生きたまま穴に投げ入れていた豚の姿がフラッシュバックする。
本当なら、この母犬と同じように静かに土を盛って葬ることはできなかったか。そんな思いが心に重くのしかかっていた。
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韓国の人々はクルマの運転が荒いとよく言われる。それは高速バスでも見られ、日本では考えられないようなバスによる追い越しなどというものも頻繁に見られた。
だから、交通事故が起こるのも必然ではあった。
空港から出る高速バスが、幹線道路上でマイクロバスと衝突する事故をおこした。
マイクロバスには深夜作業帰りの作業員8名が乗っており、そのうち運転手を含む6名が亡くなった。
救助に当たったレスキュー隊員は、マイクロバスの車内でおかしなものを見た。
横転し、ひしゃげた車体に挟まったり、頭部を強打して亡くなっている被害者たちに、小さな子犬が寄り添い、顔を舐めたりしていた。それは一見すると、目覚めないご主人様を起こそうと必死になっているペットのようにも見えた。そんな子犬が事故車には6匹もいたのだ。
あまりに必死に舐めているので、被害者たちが流した血で、子犬の口の周りは真っ赤に染まっていた。
警察とレスキューがやっとのことで被害者たちをマイクロバスから救出し終わった時、子犬たちの姿はどこにも見当たらなかった。隊員たちは皆必死の作業であったため、犬になどかまっている暇もなかったのだ。
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マイクロバスが横転した交通事故を、ニヤニヤしながら見ていたヤジウマの男がいた。
男は卑屈に、事故の様子を嬉々として眺めていた。
「おほほ、死んでんぞぉ~~」
うれしくてつい声が出た。
そんな男の足元に、どこから来たのか2匹の黒い子犬がまとわりついていた。
男はそれを見つけると、首根っこをつかんでヒョイと拾い上げ、焼酎を入れていたレジ袋の中に2匹とも押し込み、現場を後にした。
帰宅する途中、男は商店街の一角にある「健康食品」を扱う店に立ち寄った。
拾った子犬のウチ、一匹をこの店に売り渡した。
韓国では犬肉は滋養強壮に良いと知られており、健康食品として取り扱われる場合もある。
子犬はその材料として2万ウォンで買い取られた。
「お客さん、もう一匹いるみたいだけど、そっちは売ってくれないのかい?」店主が聞く。
「あぁ、コイツは今夜の酒の肴さ」
この男は過去にも近隣から他人の飼い犬を盗んでは、自分で捌いて食べるといったことをしていた。だから、子犬を見てもかわいいより先に、小さくて食いごたえはないが、柔らかくて臭みもなくてうまそうだ、と思っていた。
やがて男のアパートが見えて来た。まるで中国の九龍城塞を思わせるような、汚く、いびつな建物が連なるアパート群が見えて来た。あの中の1室が男の部屋だ。だが、そこへ行くには急坂になっているコンクリートの階段を登らねばならない。緑色に塗られた鉄製の手すりをつかむと、異様に冷たい。
「う~~~さみぃ、早く帰って酒にしよう」
手すりをつかんで勢いよく階段を上っていく男。最上段に到達しようとしたその時、力いっぱい引っ張った手すりが、腐食のためか突然折れてはずれてしまった。その勢いで男は階段を真後ろに倒れこんだ。冷たいコンクリートの階段のカドに何度も頭をぶつけながら落下した。
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