ドリームボックス3.0
投稿者:kana (217)
黒い犬は処分のため、通称ドリームボックスと呼ばれるガス室送りになるはずだった。
しかし、殺処分ゼロを目指すNPO法人の手により助け出され、譲渡会によって新しい里親に引き渡されていた。事態が変化したのは、その黒い犬を預かった家族が次々と亡くなる事件が起きてからだ。最終的にドリームボックスから逃げたこの黒い犬を警察は極秘に捜索。NPOの男性もそれに加担することになった。
その事態から半年後、大きな黒い犬を連れて旅をする不審な若者の姿が見られた。
彼はその犬に「クーシー」と名付け、その餌にするため、殺人を行いながら居場所を転々とした。とある港町の近くで警邏中の警官を殺害してしまったことで大規模な捜査網が引かれ、やがて黒い犬を連れた若者と警察隊の間で銃撃戦にまで発展する。
港から出る韓国行きの船に乗るつもりだった彼だったが、警察の包囲網を突破するのは難しく、もはや命運は尽きたかのように思えた。だがこの時、クーシーの子を宿した白い犬「ノール」は、運命的に船に乗り込むことに成功する。
韓国でのフェリー火災で逃げ出した白い犬は、間違いなくこの「ノール」であった。
ノールは、流れ歩いて某所の山で野犬たちと合流して暮らすことになる。
韓国には犬食文化があるため、野良犬はいないといった誤解も生まれやすい。が、実際にはソウル市周辺の冠岳山、北岳山、仁王山、白蓮山などにも数十頭の野犬が生息していると言われ、2021年には京畿道南楊州市内の山で50代の女性が野犬に首を噛まれて死亡する事件も起きている。
ソウル市関係者によると「野犬は随時移動する上、あまりにも繁殖が早いため」詳細を把握することは不可能だとしている。
韓国農林畜産食品部によると、全国で捨てられるなどして救助・保護されたペットは13万401頭で、そのうち犬が73%(9万5000頭)を占めたというデータもある。
(※2020年時点)
そんな中、ノールはひっそりと出産を果たし、6匹の黒い子犬が生まれ落ちた。
・・・・・・・・・・・・
24時間体制で豚の殺処分を行っていた夜間作業員たちが、やっと交代の時間となり撤収の準備に入る。もう朝日が昇りはじめている。地上では地獄が続いているというのに、空は暗いブルーから明るいオレンジ色まで、まるで絵葉書のような美しいグラデーションを見せていた。
一晩地獄を見て来た作業員たちは、誰も言葉少なでうつ向いたまま防護服を脱いでいた。
お国のための仕事、誰かがやらねばならない仕事だとわかっていながら、果たしてそこに正義はあるのか、これが本当に正しい行いだったのか、皆、考えあぐねていた。
業務を次の班に引き継ぎ、マイクロバスに乗りこんで下山する。
車内ではみんな疲れ切って誰もしゃべらない。
消えない死臭と、鳴りやまない断末魔の余韻の中、ラジオの音だけがむなしく流れていた。
ふと、クルマが止まった。
まだ山道である。信号もない曲がりくねった道だ。
不思議に思い運転する作業員の方を見ると、じっと何かを見つめている。
なんだ?と思い、視線の先を見てみると、
そこには草むらの中で息絶えている白い犬がいた。
それだけではない。その白い犬の周りには、まだ幼い子犬が6匹寄り沿っていた。
親子なのだろうか。・・・その割には母親は白いのに、子犬たちは皆黒い色をしている。
運転をしていた作業員がマイクロバスを降り、その子犬たちのところへ駆け寄った。
誰からというわけでもなく、後部座席の作業員たちもクルマを降り、子犬の元に集まった。
なんというかわいい子犬たちであろう。そして哀れな母犬。・・・いや、哀れなのは幼くして母を失ったこの子犬たちだろうか。今は小さな熊のように元気にしているが、放っておけばどうなるか・・・今夜も雪は降るだろう。明日の朝にはもう生きてはいまい。
運転をしていた作業員は子犬を抱きかかえながら、
「この子犬を引き取ろうと思う」とポツリと言った。
「おまえ一人で6匹もなんて無理だ。俺も手伝うよ」
「私も、お手伝いします」
「俺のところは実家で犬も飼ってるから、もう一匹くらい大丈夫だ」
「・・・スイマセン、うちはペット禁止で、預かれません・・・」
「なんだ、親戚に分けるとかできないのか?」
「よせ、無理強いは良くない。みんなそれぞれ事情があるんだ」
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。