非ずの間
投稿者:マチノスケ (16)
「……そんな部屋じゃないよ。そこは小さいけど座敷、ほとんど使ってないけどねぇ。たぶん、何かの拍子に開いたんでしょう」って言って、戸をぴしゃりと閉めた。
──あれ、そうだっけ?
たしかに子どもの頃、祖母は「あそこは戸が開かなくなった部屋」だと言っていた記憶がハッキリとある。座敷なんて話は聞いたことがない。なにか別の記憶とごっちゃになっていたのだろうか。でも何と?あの部屋以外に、他の場所で似たような部屋があったとか似たような部屋に行った記憶はない。それに、私自身そういう類の怪談みたいなのを好んで読むような人間でもない。間違えるようなものが入り込む余地なんてないはずだ。色々と腑に落ちなかったけど、その時は何かと勘違いしたんだと無理やり自分を納得させて、その場を離れた。それからは、特に何事もなく夕方になった。みんなで晩御飯を食べて、また適当に喋ったりテレビを見たりして、そのまま寝た。
これで話が終わりだったら、そのまま忘れちゃってたと思う。
その夜、トイレにいきたくて目が覚めた。携帯を見ると夜中の三時くらいだった。廊下の電球をつけて便所までいって、用を足して寝室にそのまま戻ろうとした時……ふと昼間のことが気になって、またあの部屋のところにいった。戸は閉まっていた。多分、昼間に祖母が閉めてからそのままなんだろう。私は部屋の前で立ち止まって、色々と考えを巡らせた。でも、違和感は拭うことはできなかった。
やっぱり、私の勘違いだったんだろうか。
子どもの記憶って、曖昧だし。
でも、たしかに……
「そこの部屋、気になる?」
私は再び叫びそうになった。
またいつの間にか、祖母が後ろに立っていた。
話を聞く限り、私と同じくトイレに起きたらしかった。戻ろうとしたら廊下に私が立ってて気になって声をかけたと。でも、物音ひとつしなかった。考え込んでいて聞き逃したのだろうか。私は内心ビクビクしつつも、とりあえず祖母が昼間言ってたことに話を合わせることにした。
「……この部屋なんだっけ、座敷だっけ」
そしたら、また祖母はキョトンとして。
「……そんな部屋じゃないよ。アンタが子どもの時よく話してたでしょう、忘れちゃった?そこは物置だったんだけど突然戸が動かなくなっちゃった部屋だよ」
「それでね。戸が開かなくなってからね、変なことが起こるようになったって話もしてたでしょう。部屋の前に黒い影が立ってたり、夜中に部屋の内側からバンバン叩く音が聞こえることがあったり。特に害はなかったから放っておいてたけど、アンタは聞いて凄く怖がってたねぇ」
……おかしい。昼間と言ってることが違う。
また「開かずの間」の話になってる。しかも、今度は変な尾ひれがついてるし。私をからかっているのだろうか。でも、祖母にそんな様子は一切なかった。なにより、そんなことをするような人じゃない。私は途端に怖くなった。祖母の純粋に不思議がっている顔と、懐かしみながら話している顔が本当に恐ろしくなった。私は半ば強引に話を切り上げて、逃げるようにして寝室に戻った。
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