赫い指
投稿者:マチノスケ (16)
サキちゃんが来ていませんでした。
私は何かあったのかと思いましたが、担任の先生によると「病院に行くため本日はお休みします」とのことでした。私はホッとしましたが、少し心配にもなりました。病院に行って、そのまま学校には来れなかったんだって。一日中、家にいなければならないほど酷いものだったんだって。あの日サキちゃんと林の奥に行った時、感じた嫌な予感が再び私を襲いました。どうか勘違いであってくれと、必死に願いました。
でも、それは的中してしまいました。
その日の夕刻、サキちゃんが行方不明になったんです。
ずっと家にいたはずのサキちゃんがいつの間にか家からいなくなっており、周辺を探しても見つからないと両親から警察へ通報があったそうです。そして学校にも連絡がいき……狭い田舎町ですから、すぐに地域一帯へと伝わり大騒ぎになりました。色んな人が色んな人に「サキちゃんを見なかったか」と聞いてまわっていました。私はあの林と墓にあった彼岸花のことが、否が応にも頭をよぎっていましたが「もう一度ひとりで行く」なんて話は当然聞いていなかったし、なにより嫌な雰囲気を感じこそすれ、怪異や呪いなど全く信じていなかったものですから「関係あるはずがない」と半ば強引に振り払っていました。結局サキちゃんの行方の見当がつかず、警察と住民が夜通し探しても見つからず。捜索は次の日に持ち越しになり、見つかるまでは警察が周辺を巡回し、子どもたちは集団下校させることが決められる事態にまでなりました。
結果から言うと。
サキちゃんは、いなくなった翌日の夕暮れに帰ってきました。
左腕の肘から先がなくなって、帰ってきました。
発見されたのは学校の裏手にある、あの林の入り口付近でした。林から出てきてフラフラと歩いているところを、巡回中の警官が保護したんだそうです。すぐにサキちゃんの両親に連絡がいき、私を含めた同級生と大人たち何人かで迎えに行きました。そして、みな絶句しました。
……おかしな点は多々あります。そもそも、あの林は「サキちゃんはやんちゃだし入っちゃダメな場所に勝手に入って迷子になったんじゃないか」と真っ先に探した場所であること。でも、いなくなった日に複数人でくまなく探したにもかかわらず、サキちゃんは見つからなかったこと。彼女が見つかったあとに再度警察が周辺を捜索しても、足跡などの痕跡が全く見つからなかったこと。ほぼ丸一日彷徨っていたであろうにもかかわらず、他の傷や衣服の汚れなどが見られなかったこと。
でも何より奇妙で、不気味だったのは。
二人の感性か、時間帯か。あるいは墓石に潜む存在に魅入られたか。本来見つけることのできない、墓石へと続く道が現れてしまった、とでもいうのだろうか。
むかしは逢魔が時と呼ばれたものだ。昼から夜へと移りゆく、なにげない夕刻のひとときに、このように悲運へと引き摺り込まんとする魔の手が蠢いているのかもしれない。