ナースポーチを握りしめる手に力が入る。
また全身から汗がどっと湧き出る。
なんだよ、あれ。
玄関の前には確かにナース服の母さんが居る。
居るが。
その母さんの上から。
玄関の扉の右斜め上から。
黒い髪の毛が逆さに垂れ下がって来ている。
さっきまであんな物はなかった。
ゆっくりと髪の毛は長くなる。
そして白い額が出てくる。
ゆっくり逆さまに覗かせたのはあの女の顔だった。
俺を見つけてさぞ嬉しいのか口角を釣り上げてにぃぃぃぃっと笑った。
目の中の渦から今回は逆さまに、頭上方向に向かって黒い液体を垂れ流していた。
そんな異常事態が起きているといのに、母さんはそれが見えていないようだった。
「か、か、母さん……そ、それ……」
「ん?」
俺が指さす方を見る。
もろにあの女が見えるはずの方向を見た母だったがやはり何も見えていないようで「蜘蛛の巣でもはってる?」とスットコドッコイな反応をしている。
俺はまた絶叫すると母さんを家の中に引きずり込んで玄関を叩き閉めた。
俺のその奇行に母さんは「ちょっと一体なんなのよっ」と心配混じりに怒っているがそんなのお構い無しで俺は全ての鍵とチェーンをかけた。
俺の動転具合には流石に母もなにかを感じ取ったらしく結局その日の勤務を早退という形で切り上げて家に一緒に居てくれた。
「なにかあったの?」と最もらしい事を聞いてくれたが、まさか俺にしか見えない女に付きまとわれていると打ち明ける気にはなれず「なんでもない」と返す事しか出来なかった。
その夜は家の至る所からゴツ、ゴツと鈍く外側から壁を叩くような音が聞こえていた。
母さんにはやはり、その音が聞こえていないらしかったが。
それも朝になり日が登った途端急に止んだ。























えっ、最後びっくりした
「床に落ちた何か」てなんだったの?