由紀子の箱
投稿者:えんたーさんどまん (2)
その間、救世主である八潮は助手席でずっと眠りこけていたが。
広町からお礼と称して夕飯を奢ってもらい、混雑する国道を抜けて広町家に到着した時には、夜の21時をとうに回っていた。
しきりに家に上がっていけと誘う広町とリサちゃんに、「小さい子がいるのに悪いよ」と遠慮し、またゆっくり酒でも飲もう!と約束を取り交わしてから、俺と八潮は広町家を後にした。
帰宅の途につく中、俺は気になっていたことを聞いてみた。
「なぁ、なんで今回はそんな協力的だったんだよ?」
「よりによってそれを聞くのか」
確かに、聞きたいことは山程ある。
だがあの箱に関することは、なんとなく八潮にもよくわかっていない気がしていたし、おそらく「誰にもわからないこと」なのだと、うっすらと理解していた。
ならば…と、俺の好奇心は、今回やけに協力的な八潮の態度に向かったのだ。
八潮は纏めていた髪を降ろして、ポリポリと頭をかきながら聞いてきた。
「広町の奥さんの…リサさんの旧姓、覚えてるか?」
「えぇ?リサちゃんの旧姓…?…ずっとリサちゃんって呼んでたしなぁ…。えーと確か…大…田?大川…大木……」
「…大崎」
業を煮やした八潮が、小声で言った。
「大崎かぁ!大崎…?大崎大崎おおさき……………………………………あっ!!?」
謎が解けた。
大崎さん…というのは、八潮の初恋の相手だ。
小4のとき、他のクラスメイト数人と一緒に怪奇体験をしている。
中学になって話さなくなった…と聞いてはいたが、まさか高校も同じだったとは。
八潮…お前って…。
意外とセンチメンタルな奴なんだな…。
俺は心の中で呟いた。
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