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心霊

セイスケくんさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

深山の儀式場
短編 2024/11/17 08:48 22view

平成初期、まだ携帯電話が普及していなかった頃の話だ。
大学のサークル活動で一緒だった友人たちと、夏休みに「秘境探検」と称して山奥の村へ出かけたことがある。メンバーは僕を含めて4人。妙に歴史や神秘主義に詳しい寺田、無鉄砲な性格の永田、そして冷静で頼れる中野だ。

目的地に選んだのは、地図にも載っていないという「消えた村」。寺田が古書店で見つけた郷土史の記録によれば、村人全員が数十年前に一夜にして消えたという。その理由は「霊的な災厄」らしいが、詳細は記されていなかった。寺田はその記録に妙に惹かれ、「ぜひ確かめてみたい」と僕たちに熱心に説得してきた。僕たちも好奇心に駆られ、彼の言う「消えた村」へ向かうことを決めた。

車を降りてから数時間、細い山道を歩き続けると、次第に人の手が入っていない気配が濃くなっていく。薄暗い森を抜けた先、突然視界が開けた。そこには確かに廃墟と化した集落が広がっていた。屋根が崩れかけた家々、草に覆われた庭、そして中央にそびえる異様な円形の石畳――村の広場らしき場所だ。

「これが儀式場だな」と寺田が言う。その円形の石畳は、中央に奇妙な文様が刻まれていた。何重にも渦を巻く線が複雑に絡み合い、まるで異世界への通路を描いたようだった。

「ここで何かヤバいことをやってたんだろうな。生贄とか?」永田が冗談めかして言ったが、広場に漂う不気味な空気に全員が無言でうなずいた。石畳の周囲にはいくつかの供物と思われる古い壺や割れた器が散乱しており、確かにただならぬ何かが行われていた気配が漂っていた。

中野が周囲を見渡し、「こんな場所に、なぜ村が存在していたんだろう」と小声でつぶやいた。その疑問は全員の心に重くのしかかった。

夜、僕たちは崩れた家の一つで泊まることにした。寺田は例の儀式場に向かって、「霊を呼び出す儀式を試してみないか?」と提案してきた。

「冗談だろ?こんなところでそんなことしたくない」と中野が反対したが、寺田は熱心に説得を続けた。永田も「やっちゃおうぜ、どうせここまで来たんだし」と軽率に同意し、僕も好奇心が勝ってしまった。結局、中野も渋々納得し、儀式を試みることになった。

僕たちは蝋燭を並べ、石畳の上に白い粉(石灰)を撒き、古書に書かれた手順に従って儀式を始めた。寺田が低く唱え始める声が、静かな森に響いた。そのときだ、森の奥から「ザッ、ザッ」という足音が聞こえてきた。

「誰かいるのか?」永田が声を張り上げたが、返事はない。ただ足音だけが徐々に近づいてくる。そして――突然、石畳の上の蝋燭がすべて吹き消された。

「やめよう、帰ろう」と中野が低く言ったが、寺田は儀式を途中で止めるのは危険だと言い張った。その緊張感に包まれた瞬間、僕たちは森の奥から現れる白い影を目にした。

白い影はやがて儀式場に入った。長い白衣をまとったその姿は、顔が影に隠れて見えない。異様なほどに冷たく、しかし圧倒的な存在感だった。僕たちは言葉を失い、ただ立ち尽くしていた。

「近寄るな!」寺田が叫んだが、影は止まることなくゆっくりとこちらに歩み寄る。その瞬間、僕の耳元で冷たいささやき声がした。

「お前らも――消えるのか?」

その声を聞いた途端、足元が崩れ落ちるような感覚に襲われた。見下ろすと、地面が不気味に裂け、そこから無数の白い手が這い上がり、僕たちの足を掴もうとしていた。

僕たちは必死に叫びながらその場を飛び出した。僕の頭の中は「ここから逃げなければ」という一心だった。

僕たちは何とか広場から脱出したが、森の中は全く違う場所のように見えた。獣道は消え、鬱蒼とした木々に囲まれていた。方角がまったくわからず、どこをどう走れば元の道に戻れるのかも不明だった。

「どうする?どこに向かえばいいんだ?」と永田が震えながら問いかけたが、僕たちは答えることができなかった。ただ、後ろからは「帰れない」「ここに残れ」という、まるで何人もの声が混ざり合ったような響きが追いかけてきた。その声が僕たちの背中を押すように、僕たちは必死に森の中を駆け続けた。

どれだけ走ったのか、夜が明けるころ、僕たちはようやく麓の村に辿り着いた。あの廃村からどうやって脱出したのか、詳細はぼんやりとして思い出せない。ただ、あの白い影と無数の手が僕たちを捕まえようとしていたあの瞬間だけは、今でも鮮明に思い出すことができる。

後日、寺田は「あの儀式場で何かを解放してしまったのかもしれない」と真剣な顔で語ったが、それ以上のことはわからなかった。あの儀式が何を目的としていたのか、村に何が起きたのか、その謎は依然として解明されていない。

僕たちはそれ以来、二度と怪異や廃村に関わることはなくなった。しかし、時折、夢の中で聞こえてくるあの囁き――「お前らも消えるのか」が、今でも僕の心に不気味な影を落としている。

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