想像力の敗北
投稿者:ねこきち (21)
短編
2024/11/01
14:43
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「ここだよ、ケーキが落ちてたところ」
妻がそう言った途端、僕は自分の背中にぶわっと冷や汗がにじむのを感じた。
ここに、ケーキが?
僕はしばらくの間、後ろに遠ざかっていく竹藪から視線が外せなかった。
怪談に限らず、以前読んだり聞いたりした時はなんとも思わなかった話を、後に改めて見聞きしたら全く違う感想を抱くという体験は誰しもあると思う。
同じ物語でも、それを体験する時の自分のコンディションによって感じ方が変わるのは当然のことだ。名作ってやつは、作者と読者の阿吽の呼吸によって名作になるものだと思う。
実際の竹藪を見るという外からのインプットによって、僕の中で妻の体験談はシュールギャグからホラーにアップデートされた。
同時に、件の竹藪はケーキが落ちていたという逸話によって一層不気味さを増すことになった。
なんという相乗効果だろう。
僕の想像力の敗北だな、と思った。
だから、皆にも真剣に想像してほしいんだ。
夕暮れの暗い竹藪を。
竹の間から見える禍々しい程に紅い落日を。
頭上から聞こえるオナガの悲鳴のような鳴き声を。
地面に置いてある新品のケーキを。
それを呆然と眺めている幼い自分を。
そんな自分を密かに凝視していた、あの視線を。
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作り話と断り入れられても尚且つゾッとする話が好きってめっちゃ共感