発狂する黒い煙突━全ての働く方々へ━
投稿者:ねこじろう (147)
行きつけの小料理屋で日本酒を交わしあい美味しい料理に舌鼓を打った後、それでは帰りましょうかと代行タクシーに連絡する。
だがその日は週末で二時間まち。
部長は明日は朝早いということだった。
澁谷は酒で少し気が大きくなっていたということもあったのだろう。
つい「だったら私の車で送ります」と言ってしまった。
部長は飲酒運転だから止めた方が良いと断っていたが、彼は半ば強引に彼を車の助手席に座らせるとそのまま走り出す。
そして取り返しのつかない事故を起こしてしまった。
疲れた体に飲酒という悪条件が重なったからだろう。
澁谷はついハンドルを握ったままうとうとしてしまい、ガードレールに突っ込んでしまった。
結果フロントガラスに頭部を強打した部長は今も意識不明の重体。
澁谷は3ヶ月の入院ということになる。
もちろん免許は取り消し。
さらにかなりの額の罰金も払わされた。
相手先会社の部長に彼は、これから一生償っていかなければならなくなるだろう。
そして今年の梅雨時にようやく退院し会社に復帰した澁谷に待っていたのは、営業部から総務部資料係というそれまで彼が聞いたこともないような部署への異動。
実質的には社内左遷というやつだった。
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第一記録保管庫室内の西側窓際にはデスクが4つ並べられ東半分には背丈ほどの書棚が並んでいて、まるで図書館の一角のような外観だ。
そこには会社の様々な部署の記録ファイルが、ぎっしり収まっている。
それは澁谷が総務部の男性社員に連れられ保管庫に案内された初日のこと。
男性社員は澁谷と同期で大学も同じで、たまに交遊もあった。
窓際にあるデスクの一つの前に立ち「ここが席だ」と言った後、背後にある書棚まで歩く。
そしてデスクの上にカバンを置く澁谷に向かって、再び口を開いた。
「ここにある膨大な数のファイルは全て、会社の情報がデジタル化する前の手書きの頃のものばかりなんだ。
今日からきみには、ここにあるファイルの訂正をやってもらうから」
「訂正?」
オカルト的な怖さより普通の人が正気を失って行く様がとても怖い。それが戦時下であれ企業であれ平気で追い詰めて行く人の存在はもっと怖い。