ワタヌキ様
投稿者:やおよろず やお (6)
短編
2024/10/03
15:39
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それなら、と私は儀式をしていた山の祠まで歩みを進めた。
進めば進むほど草木が深くなり、カビ臭い匂いが立ち込める。空からの光が消えていき、だんだんと足元もゴロゴロとした石が多くなってゆく。
転ばないように、躓かない様にと一歩一歩進んでいくと、急に開けた場所に出た。
ポツンと一つ中央に祠が建っている。
私は吸い寄せられる様に祠に近づいていった。
すると観音開きの扉が少しだけ開いた様に見えた。
あと少し…
手を伸ばしたその時、後ろから
「○○!!どこ!?!?○○!!!」
咄嗟に聞こえた大人の声にハッとして
私はすぐ近くの茂みに隠れた。
しばらくすると数人の村の大人たちとお坊さんたちが何かを探してる様だった。
見つからない様に帰ろう、そう思ってゆっくり首を動かした時
地面に小さな子どもの手が転がっていたのが見えた。
「あ」
大きな木の幹の後だ。
直感で見てはいけないってわかった。
すぐさま近くにあった石を大人たちの方へ向かって投げて、一目散に山を降りた。
その後どうなったのかはわからない。
まもなくして、あの子たちの家族はこの村から引っ越した。
あの日から15年以上は経つかな。
そうそう、「ワタヌキ様」なんだけどね
漢字だと「腸抜様」って書くんだって。
あの日以来、奉納の儀式はしてないそうだよ。
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