あの夏への扉
投稿者:綿貫 一 (31)
「なんもだぁ。
婆ちゃんも大往生だし、最期までしっかりしてたかんねえ。皆、笑って送ってやったよ。
そうそう、それよりねえ――」
伯母はいたずらっぽい表情を浮かべると、背後から何かを取り出す。
差し出されたそれは、古い絵日記だった。
「これは……」
手に取って、パラパラとページをめくる。
幼い子供の手による、絵と文字。
どれも見覚えがあった。
当然だ。
これは、自分自身が書いたものだったのだから。
「――ずいぶん、懐かしいものが出てきましたね」
「でしょう? 婆ちゃんの部屋を片付けてたらねえ、引き出しの中から出てきたんだよぉ。
爺ちゃんも婆ちゃんも、夏休みの度に洋ちゃんが来るのを、楽しみにしてたからねぇ」
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子供の頃、毎年お盆の時期になると、私たち一家は母親の実家であるこの家へ、帰省をしていたものだった。
同じ学校の友達もいない。
漫画をたくさん置いている大きな本屋も、テレビゲームもない。
普段の生活の場とはかけ離れた環境であったが、私は毎年、ここを訪れるのを楽しみにしていた。
森に行けば、山ほどカブトやクワガタが取れる。
町を流れる小川では、面白いように魚が釣れる。
夜になれば、祖父に連れられ、田んぼに蛍を見に行った。
そして、ちょうどお盆の時期に行われていた、山の神社の夜祭――。
『洋ちゃんの手は、あっついねぇ』
『……の手は、冷たいね』
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「――洋ちゃん、どうしたね?」
伯母が私の顔を覗きこんでいる。
どうやら少しの間、放心していたらしい。
【吉良吉影!雪女に会う~少年時代 特別編~①】
何となくこれを思ったw