透明になったさっちゃん
投稿者:綿貫 一 (31)
「え! ううん、別に何もないよ?
なんで?」
「だって、何か嬉しそうっていうか、表情が明るいっていうか……。
いいよね、あなたは毎日学校に行けて……」
空中に浮いたリボンが、さびしげに揺れた。
「さっちゃん……」
わたしはかける言葉を失った。
「――ごめんね? 心配して毎日来てくれる友達のこと、悪く言うなんて、違うよね。
ごめんなさい。また、明日も遊びに来てくれる……?」
「うん……」
気まずい空気のまま、わたしたちは別れた。
※
翌日、わたしはミツルくんに校舎裏に呼び出された。
校舎裏には古い大きな桜の木が立っていて、わたしたちふたり以外、誰の姿もなかった。
そして、わたしはミツルくんから告白された。
「キミのこと、前からずっと、気になってた」だって。
今日は――いや、しばらくの間は、さっちゃんのところには行かれないと思った。
きっと、浮かれているのがバレてしまうから。
そして、彼と一緒に過ごす放課後が、楽しみで仕方がなかったから。
わたしは、自分自身を酷い人間かもしれないと思ったけれど、同時に、みんな案外そんなものなかもしれないとも思った。
友達が大変なときにだって、わたしが幸せになっちゃいけない理由は、ないはずだから。
※
その夜、わたしは幸せな気持ちでベッドに潜り込んだ。
そして、幸せな夢を見た。
だから、夜中にふと目を覚まして、布団からはみ出た自分の右手が透けているのを見た時、その落差に思わず身体が震えた。
初めは何が起こったのか、わからなかった。
でも、暗い部屋の中、赤いリボンが静かに空中に浮かんでいるのに気がついて、すべてを理解した。
「――さっちゃん、そこにいるの……?」
わたしの問いかけに、返事はなかった。
〈了〉
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。