透明になったさっちゃん
投稿者:綿貫 一 (31)
「――え? 服も?」
「うん……。私が着ている服も、時間が経つとだんだん透けていって、1日も経つとすっかり透明になっちゃうんだ……」
透明になる範囲が拡がっている、ということか。
彼女が長時間触れているものもまた、透明になってしまう。
「夜寝てるベッドなんかも、上半分くらいは透明になっちゃってて。
どうやら、影響する範囲はそんなに広くないみたいなんだけど……」
お気に入りの服ですら、身につけているだけで透明になってしまう。
なんて悲しいことだろう。
それからの彼女は、毎日違う色のリボンを腕に巻くことで、事情を知る周囲の人間(家族や医療関係者、それに友人の中では唯一わたし)に、存在をアピールしていた。
そのリボンがなかったら、誰も彼女を探し出せなくなる。
もし仮に、彼女が事故に遭って、声も出せずに倒れていたとしても、誰もそれに気付けないのだ。
見えないのだから。
わたしは、空中にぴょこんと浮いたリボンを目印に、「そこにさっちゃんがいる」と信じて話しかける。
そして、期待通り彼女から返事が返ってくることで、毎回、少しホッとするのだった。
※
さっちゃんにとっては、受難の時が続いていた。
わたしは友達として、少しでも彼女の支えになりたいと思って、毎日、学校が終わるや否や、さっちゃんの家に通った。
おかげで、他の友達とは少し疎遠になってしまったけれど、そんなこと気にしていられなかった。
ところが、運命とはわからないものである。
そんなわたしの様子を見て、気にかけてくれたクラスメイトもいた。
その人物は、「幸運にも」というべきか、「よりにもよって」というべきかわからないが、さっちゃんとわたしが想いを寄せる男子、ミツルくんその人だった。
「最近、元気ないみたいだけど、大丈夫?」
「ありがとう。さっちゃんのお見舞いに行ってるだけだから、わたし自身は大丈夫だよ」
「仲の良い友達のためとはいえ、毎日通うなんて、キミ優しいんだね。
僕でよければ力になるから、何でも言ってくれよ」
好きな男子から優しい言葉をかけてもらって、嬉しくない人間などいるはずがない。
わたしはまさに、天にも昇る気持ちだったが、それをさっちゃんに言うわけにはいかなかった。
彼女の不幸をきっかけに、わたしだけが良い目にあっているだなんて、知られたくない。
ただ、さっちゃんは鋭かった。
「――ねぇ、今日、なにか良いことでもあった?」
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