お告げ
投稿者:綿貫 一 (31)
冷房なんかかかってないのに、腕には鳥肌が立っていた。
私は努めて、明るい声で尋ねた。
ヒナコはすぐには答えず、コーヒーカップの中に角砂糖をポチャン、ポチャンと落とした。
「溶けちゃった……」
カップの中を覗いたまま、不意にヒナコはつぶやく。
それからもう一度、「溶けちゃったんだ」と繰り返した。
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天使は急に苦しんで、もがきだしたかと思うと、私の見ている前で溶けていってしまった。
肌がプクプクと泡立って、みるみる輪郭が小さくなっていって。
やがて、メレンゲみたいな細かな泡の固まりになって、鶏小屋の乾いた地面に染み込んで消えてしまった。
私は動けずにいた。
どれくらいそうしていたんだろう。
用務員さんが心配して呼びに来て、そこで初めて自分が呆然としていたことに気がついた。
結局、そのことは誰にも言わなかった。
用務員さんにも、親にも、友だちにも。
夢でも見たんだろう、って言われると思ったから?
ううん。
なんか、言うのが怖かったから。
口に出しちゃいけないことみたいな気がしたから。
翌年、仲の良かった親戚のお姉ちゃんに、子供が生まれたの。
その子の名前は――「アキラ」だった。
※
※
鶏の卵から、ヒヨコ以外のものが生まれた。
それは、小さな赤ん坊の姿で、背中に羽根を持っていた。
しかも、その「天使もどき」は、ヒナコの身近な人間に関わる出産を予言して、溶けて消えてしまった。
奇妙な話だ。
奇妙なことが重なり過ぎている。
だけど――。
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