お告げ
投稿者:綿貫 一 (31)
「確かに不思議な体験だけどさ、ヒナコにとって、悪いことは何も起こってないわけだよね?
仲良しの親戚のお姉さんに子供が生まれたってこと自体は、嬉しいことだったわけじゃない?
『出産』を告げる『天使』といえは、ガブリエルだっけ? 『受胎告知』の。
聖母マリアに、神の子であるイエスを身ごもったことを知らせに現れる。
あれ? でも、最後に溶けちゃったりはしないか。
生まれてすぐに予言をして、それから死んじゃうっていうなら、日本の妖怪、『件(くだん)』の方か。
でもそれだと、牛から生まれて、顔が人で身体が牛な奴だなぁ。
なんだかハイブリッドね、ヒナコが見たソイツ――」
私はわざと明るい声で、べらべらと思い付くことをしゃべった。
なぜなら、ヒナコの話がこれで終わりじゃないこと――まだ続きがあることが、わかっていたから。
『たまに、おかしなものを見るんだ――』
たまに。
それは一度きりじゃない。
「チカちゃんって、いたじゃない?」
「チカって、中3の時のクラスメートの?」
記憶の底から、懐かしい顔が浮かび上がってくる。
私とヒナコとチカ。私たちは、仲良し3人組だった。
それだけに、タブーとなった名前。
「やめてよ! なんで急に、チカのことなんか……」
「私が二度目に天使を見たのは、中3の時だったの――」
※
※
私ん家(ち)って、母親とふたり暮らしで、母親は看護師で夜勤の多かったから、朝ごはんはよく自分で作ってたんだ。
ある朝、いつものようにトーストを焼いて、次に目玉焼きを作ろうとしていたの。
フライパンに油をひいて、冷蔵庫から卵を出して。
いつもどおり、慣れた動作で、無意識に。
片手で卵を割って、フライパンの上に中身が、
トゥルン!
ボタ!
ジュッ!
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。