いわくつき物件専門の不動産屋さん【CASE1】
投稿者:ねこじろう (154)
そんなRinRinさんが安河内の事務所を訪れたのは、ちょうど桜の開花しだした春先のことだ。
わずか6帖ほどの狭い事務所だ。
そのパーテーションで区切っただけで形だけの応接テーブルの前に腰掛けたRinRinさんが、正面に座る安河内に向かって口を開く。
「この近くの辺りで、今やってる仕事にぴったりな部屋を探してるの」
「どんな部屋です?」
白いワイシャツにネクタイ姿の安河内が、RinRinさんの派手な化粧顔を見ながら質問する。
「そうねえ、出来れば一軒家とかが良いわ。
とりあえず広い部屋が一つあったらいいんだけどね。あとはアタシの寝る場所とトイレ風呂と、それと友達とかも呼んだりするからあと数部屋あったら良いかな」
サイケデリック柄のパーカーに同じ柄のチノパン姿のRinRinさんが返す。
「はあ、、、」
そう言って安河内は頭をかくと、手元にある分厚い物件ファイルに次々目を通していく。
ファイルを見ながら彼はそれとなく言った。
「あの、、ご存じかとは思うのですが、うちはちょっと変わった物件のみを扱っておりまして、その、いわゆる【いわくつき物件】というやつで、その辺はご了承していただけてますでしょうか?」
「知ってるわよ、お化けが出るんでしょ。お兄さんアタシねえお化けなんて全く怖くないの。いやいるんだったら寧ろ会ってみたいくらいよ」
「それを聞いて安心しました。それではいくつか候補があります」
そう言って安河内はファイルから数枚を抜き取ると、テーブルの上に並べる。
彼は、左に平面図右に物件の説明が書かれたA4サイズの紙をRinRinさんの前に置くと一枚一枚説明しだした。
候補の物件はどれも住環境、間取り、広さなどから考えると破格の家賃であり理想的なのだが、全てが直近でなんらかの事件や事故その他のわけありな問題があるものだ。
一通り説明を聞き終えたRinRinさんは「じゃあ、これ!」と言って、あっさりその中の一枚を指さす。
安河内はちょっと動揺した。
生きている人間が怖い。
おっしゃる通りですね
─ねこじろう