盆の舟
投稿者:青空里歩 (2)
あの世から死者たちを乗せ、一年に一度 盆の入りに来て、盆中ずっと沖に停泊し、盆明けの夜明け前、死者を乗せ、またあの世に帰っていく。
古(いにしえ)より、この世とあの世の「渡し船」の役割を果たして来たのだと。
盆の船に乗れる人は、一周忌を迎えたばかりの人で、「自死」を除いた「寿命を全うせずに亡くなった人」だけに限られる。
定員については毎年変わると言われ、その年に乗れる人数は制限があるらしい。
ところが、毎年、懐かしい家族やかつての恋人に相見(まみ)えると、舟に戻らず、そのまま現世に留まろうとする者が必ず出てくるのだそうだ。
行きと帰りで人数が違うと、船はあの世に戻れなくなり、この世を彷徨うことになる。死者たちは、二度とあの世に戻れないらしい。
ところが、死んだ者の中には、盆中に自分の身代わりを見つけ、船に乗せようと良からぬことを企む輩も一定数存在するという。
船を司る船頭は、数さえあっていれば良く、行きと帰りとで、乗船者の顔ぶれが変わろうと一向に頓着しないとのこと。
良からぬことを考える輩のすることは、この時期、海に近づいた者たちを海難事故と見せかけて殺し、自分たちの身代わりとして盆の船に乗せ、あの世に送り帰す。らしい。
以前は、海難事故だったのが、最近は、交通事故を装うことが多いらしい。一度に何人も殺せるからだ。
実際、2年ほど前、錆びたガードレールを乗り越えて、すぐ下の崖にダイビングした家族が居た。
ワンボックスカーに5人が乗っていたらしい。
お盆に一家で帰省していたんだろう。
ひとりだけ生存者が居たんだが、その人の話してくれた内容が、まさしく 君の言ったこととほぼ同じだったというわけだ。
対処法は、ないと言っても良い。
敢えてあげるとすれば、
盆に限らず、二度と海に近づいてはならない。
それと、この事を知る人間と、今後絶対に会ってはならない。
(電話で話す分にはいいらしい。)
輩たちに気付かれないように、住むところは、海や川のない場所にする。
ぐらいだ。
この盆休みを利用して、アパートを解約し、奥羽山脈の麓近くにある 私の実家に身を寄せる。
山までは、流石に追いかけては来ないだろうから、その方が安心なのだ。
それと、中でも、身代りに選ばれる者は、弱いもの。年端のゆかないもの。魂の美しいものが選ばれやすいのだという。
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以上が、夫の話してくれた全容です。
話を聞き終わり、私は、私の胸ですやすや眠る息子を ギュッと強く抱きしめました。
「あくまでも、都市伝説さ。母さんも言っていただろう。生きている人間のほうが、ずっと強いって。」
私は、別れ際、舅が言った言葉が頭から離れませんでした。
「この子は、もうダメだろうって。お父さん話していたけど。それは、さっき、貴方が言ったようなことと同じ理由なの?」
夫は、厭な顔をしましたが、話さなければならないのかなと前置きし、
「良からぬ者たちは、若い女や子どもを好むらしい。それと、過去、盆の舟に連れて行かれそうになった乳飲み子がいたんだが。その子は、一生寝たきりで過ごした。というわけだ。」
「ま、気にするときりがない。それこそ、あいつらの思うツボだろうから。君はもう母親だ。俺も父親になった。前だけを向いて行こう。」
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サービスエリアで小一時間ほど休憩し、私達は、私の実家へと向かいました。
高速に乗ると、私は実家に電話しました。
「あ、お母さん、急にごめんなさい。これから、そっちへ行くから。うん、いいの。わけあって和也(夫の名)さんのお家には、行けなくなってしまったから。しばらく、泊めて。それから、大事な話があるの。お父さんはいる?うん、和也さんも△△くんも一緒だから。待っててね。一時間もしたら着けると思う。」
まさか、ご主人(‘_’?)
なかなか読み応えがあって面白かったです。
長編で面白い作品に怖い話の醍醐味を感じました。
これからも頑張ってください。
(゜レ゜)。
レーサーが宝船を見てはいけないという話があったと思う(゜レ゜)。
東北こういう話多いね(;_;)。
( ゚д゚)。
お読みいただき、コメントを下さった3名様、ありがとうございます。作者の青空里歩です。
順を追って、返信いたします。
・確かに、衝撃的なラストです。ご主人の後悔たるや並大抵のものではないでしょうね。
・初回投稿作『優良物件の裏側』をお読みくださった方でしょうか。もったいないほどの励ましの言葉ありがとうございました。これからも、ご期待に添えるよう頑張ります。基本、長編が多くなりますが、短編、中編にもチャレンジしていきたいです。どうぞよろしくお願いします。
・レーサーが宝船を見てはいけない。そんなジンクスがあったなんて初耳です。グーグルで検索してみたのですが、深夜番組で放送されたそうですね。実際に、現役カーレーサーで、見た人がいらっしゃるのでしょうか。
東北は、別名「みちのく」ともいわれています。(漢字では、「未知の奥」と書くらしいですから)怖くて不思議な伝承怪談の宝庫。まだまだ、未知の怪談がたくさんありそうですよ。
文章も上手く、構成もしっかりしている傑作。
美しくも妖しい屋形船の姿が目に浮かんでくるようです。