盆の舟
投稿者:青空里歩 (2)
お囃子に合わせ、棒の先に丸いお椀のついた杓を手に、嬉しそうに舞を踊る人影が見えました。
やがて、船全体を包み込むように、水色の羽衣が、海風に吹かれながら、右に左にふわふわと宙を舞いながら漂い始めました。
幻想的な光景は、お盆に飾る走馬灯のようで、眩いばかりの美しさに、私は、思わず息をのみました。この小さな田舎町が主催するお盆のイベントなのかもしれない。思い出にしばし、眺めていようと思いたち、ラジオのスイッチを切り、車をガードレース脇に止め、窓を全開にいたしました。
すぅと湿り気を帯びた生ぬるい海風とともに、
「おーい。」という微かな声が聞こえてきました。
屋形船の上から黒い人影が、こちらに向かって手を振っています。
一人、二人…人影は、次々と増えていきます。
「おーい。」
「…来いよぉ。」
「こっちに…来いよぉ。」
「おーい。」
え?
おかしい。
あんなに遠く離れた場所にいるのに、声が、だんだんとこちらに向かって近づいてくるのです。
そもそも、沖に停泊している船や乗船している人たちが、暗い夜の海で、こんなにはっきりと見えるはずがありません。
提灯の大きさは、伸び縮みする風船のように変化し、灯りも、暗くなったり明るくなったりと不安定になりだしました。どうも様子がおかしいのです。
船を取り囲むように舞っていた羽衣と思しきものは、よく見ると、破れてボロボロになった帆柱の残骸のようでした。
もはや、この世のものとは思えません。
手元の時計は、22時を指しています。
海岸沿いを走り出してから、既に2時間以上が経過していました。
イベントならとっくに終わっているはずです。
全身が泡立つような怖気と悪寒に襲われ、私は大急ぎで窓を締めました。
その時、後部座席でおとなしく眠っていた息子が、ギャァァァと大声を上げ、激しく泣き出しました。
ドン!
ドンドンドン!
ガードレール側の後部座席の扉(ドア)が 数回叩かれ、
「おい!」
「おい!」
と嗄れた太い男の声がしました。
声のする方に身体を向けると、車の扉(ドア)の向こうに、真っ黒い人影が立っているのが見えました。
後部座席の扉(ドア)とガードレールの隙間に、人が立てるほどのスペースはありません。
まさか、ご主人(‘_’?)
なかなか読み応えがあって面白かったです。
長編で面白い作品に怖い話の醍醐味を感じました。
これからも頑張ってください。
(゜レ゜)。
レーサーが宝船を見てはいけないという話があったと思う(゜レ゜)。
東北こういう話多いね(;_;)。
( ゚д゚)。
お読みいただき、コメントを下さった3名様、ありがとうございます。作者の青空里歩です。
順を追って、返信いたします。
・確かに、衝撃的なラストです。ご主人の後悔たるや並大抵のものではないでしょうね。
・初回投稿作『優良物件の裏側』をお読みくださった方でしょうか。もったいないほどの励ましの言葉ありがとうございました。これからも、ご期待に添えるよう頑張ります。基本、長編が多くなりますが、短編、中編にもチャレンジしていきたいです。どうぞよろしくお願いします。
・レーサーが宝船を見てはいけない。そんなジンクスがあったなんて初耳です。グーグルで検索してみたのですが、深夜番組で放送されたそうですね。実際に、現役カーレーサーで、見た人がいらっしゃるのでしょうか。
東北は、別名「みちのく」ともいわれています。(漢字では、「未知の奥」と書くらしいですから)怖くて不思議な伝承怪談の宝庫。まだまだ、未知の怪談がたくさんありそうですよ。
文章も上手く、構成もしっかりしている傑作。
美しくも妖しい屋形船の姿が目に浮かんでくるようです。