「・・・地元の人間ならまず近寄らない。あそこはね、色んなことがありすぎた。人が集まり、離れ、栄えて廃れて何もなくなった。大きな事故があり、たくさんの人が死んで・・・そして誰もいなくなった。残されたのは多くの夢の残骸だけ・・・」
運転手は尚も続ける。
「〇〇炭鉱跡はね、まだ燻っているんですよ。石炭の燃えカスみたいに人の想いが、夢が、希望が。笑っちゃうでしょ?もう何も残っていないのに」
少し肩を揺らし笑いながらそう言った。
「聞いたでしょ?サイレン・・・」
ルームミラー越しに運転手の表情が真顔に戻る。運転手が放ったその言葉に全身が凍り付いた。
「あれはね、ただのサイレンではない。人をね、求めているの。集めているの。あの町に。あの町に居つくであろう人間を探し求めているんだ。まだ、この炭鉱の町は終わってないって。だから私があなたを迎えにきたってわけ」
迎えにきたという言葉に心底戦慄した。
運転手はそう言い終わるとカーラジオのスイッチを入れた。
《ウーーーーーーーー》
ラジオから流れるサイレンの音はあの炭鉱跡で聞いたものと同じ・・・恐怖で言葉一つ発することができなかった。
「でもね、人を集めようと連れてこようとあそこはもう終わっている。だからね、あなただけでも帰りなさい。でも残念だけどお連れさんのことは諦めてください。彼は魅入られ、魅入ってしまったから。だからもう戻ることは決してない。私と同じようにね」
ハッと目を開けると、そこは旅館の部屋だった。眩しい日差しを受け、夜が明けたことを知る。外から野鳥の声が聞こえた。
恐る恐る隣の布団に視線を移す。寝ているはずの沢田の姿は無かった。
「やっぱり行ってしまったんだな・・・」
深いため息をつきながら運転手との会話を思い出し、沢田が帰ってこないことを理解した。
夢の中での沢田の感謝の言葉を思い出し、木村の目から涙が零れた。
その後、フロントに連絡し沢田が突如部屋からいなくなったことを説明。その後警察へ連絡し、捜査が始まった。このあたりの話は省略するが、結論として沢田は見つからなかった。担当者からは遠回しに、このような事案は年に数件あること、その失踪者全て見つかっていないことを説明された。
沢田の両親とも、高校卒業以来久々に再会。二人とも少し老いた印象であるが、それ以上に憔悴しきっている様子であった。それもそのはず、一人息子の沢田が行方不明になったのだ。その心労は察するに余りある。
それでも二人は気丈に振舞い、捜査に積極的に協力してくれたこと、最後の旅行に付き合ってくれたこと、何より息子と高校からずっと仲良くしてくれたことへの感謝の気持ちを木村に伝えた。
あれから10年の月日が流れた。沢田は未だに見つかっていない。
スマホのアルバムには、炭鉱町跡で撮った沢田が残っている。恐らく沢田はそこにいるんだろう。
「あいつに一言言ってやりたい。お前が誘った旅行なのに宿泊費持つはずだったのに、二人分払ったのは俺だぞ!金返せよって(笑)」
もう二度と会うことはできないのはわかっている・・・。写真の沢田は満面の笑みを浮かべていた。彼はきっとあの町で幸せに過ごしている、木村はそう信じている。






















他の投稿者には悪いですけど別格ですね。
安定感があって毎回ハズレがない。
心霊スポット系の怪談の中でも、ダントツに怖く、切なく、考えさせられる内容でした。この方の作品は、安定していてハズレがないですね。ノスタルジックな情景描写も、かつての繁栄を知るもののひとりとして、胸迫るものがありました。
凄い。
これを元にショートムービー作って欲しいレベル
木村さんを伝聞調になった辺りから、何となく展開が読めましたが、物悲しく切ない感じがよかったです。炭鉱の町というところがいいですね。長崎出身の私、軍艦島は小さい頃生きました。
これは凄い。数ある投稿の中で群を抜いている。情景が目に浮かぶ。自分も物語の中に一緒にいるような、とても不思議な感じ。とにかく素晴らしい。ありがとうございました。
もうーーー、作品としての出来が素晴らしいです タクシーが現れた時点で痺れた そしてタクシー運転手のセリフがもう 予想通りながらまたまたしびれます! そのセリフの中身がホテルキャルフォルニア
たくさんのコメントと投票ありがとうございました。
準大賞受賞することができて嬉しい限りです。
お気に入りのYouTubeチャンネルで動画にしていただいて、何度も聞き返してしまいました(笑)
動画にしてくれた編集者の方にも感謝です!
鳥肌がたった
何よりもすごかった。表現が天才
大傑作
最高に面白かったです。怖さと気味の悪さと、寂しさが絶妙なバランスでした!大好きな作品になりました!
切ない
行方不明が多い〇〇炭鉱って北海道の「雄別炭鉱」かな?
これは映画化してほしいレベルで良作。怖さの中にも切なさがあって人の心奥底にあるノスタルジックな部分を呼び起こさせる。
怖いながらも情感もあって、読みごたえがすごい。
もはや文学の域だと思う。
すごく面白かった。なんだろう、学校の怖い話?だったかな、30年以上前に似た話の漫画を観た気がする。
廃校に肝試しに行った仲間1人が行方不明になって、廃校の壁にかかった過去の写真に写っているという話だった気がするな、、