「ああ、わかった!」
30分ほどだろうか、しばらく待っているとEさん親子はまた僕の方へと近づいてきた。
「そこだな!?今助けるからな!」
どうやら二人は僕を助けようと、家具や瓦礫を動かそうとしていた。
「お前はそっちを持て、ゆっくりだぞ!」
「わかってるよ父さん。」
ふたりは倒れた家具や瓦礫をゆっくりと動かしてくれて、僕はそこから出る事が出来そうだった。
「ぼ、僕はもう大丈夫です。それよりも近くに妻がいたはずなんですが…?」
「そこにいた奥さん…ですよね…でももう…」
「おい!それ以上はもういい!!」
Eさんは息子にそう制した。
妻は安心して気を失ったのか、声を発することはなくなっていた。
挟まれた下半身はまだ痛みがあったが、ふたりのおかげもあって、そこからは自力で脱出できた。
瓦礫をかき分けて妻の声が聞こえていた方向へ行くと、そこには頭が血まみれの妻の変わり果てた姿があった。
「うわああ…」
声にならない声、とはこういう事を言うのだろう。それを身をもって知った。
「Eさん、早く、早く救急車を…!!」
「…落ち着いてよく聞いてください。私がさっき奥さんを発見した時には、もうこの状態でした…。」
Eさんは僕を落ち着かせようとしたのか、少し間を取り
「さっき奥さんを発見した時はもう冷たくなっていて、念のため脈をとってみたんですが、残念ですが脈はもうありませんでした。」
「そ、そんな…。」
僕は言葉を失ったが、ある事を思い出した。
「そ、そうだ、さっきまでスマホで動画を撮ってたんです!それに妻の声が録音されているはずなんです、だから妻はまだ生きてるはずです!」
僕はおぼつかない手でEさんの目の前でスマホを操作し、動画を再生してみた。
一つ目の動画は昨日の夜の物で、暗かったせいで画面が真っ黒になっていて再生を止め、次の動画を再生した。
二つ目の動画はさっきまで撮影した物だった。
「ほら、よく聞いてください、これは僕の声です!」
スマホの音声を最大にして動画を見せると、僕の声が聞こえてきた。
「そ、そうだ、あれ覚えてるか?」
(無音)
涙が、こみあげてきました。奥さまの心の声だったんですね。
私も涙が出ました。
主人公は極限状態で起こりうる一種の幻聴が聞こえていたんだと思います。助かってよかったですね