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不思議体験

綿貫 一さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

ドタッ
長編 2023/12/20 20:49 5,399view
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ケータイで音楽を流しながら、鼻唄混じりに段ボールをたたんで、紐で縛っていく。
あらかた片付いたところで液晶を見ると、ちょうど午前2時だった。

不意に、奇妙な予感がして、Iさんは立ち上がった。

巨大な地震が来る前兆のような、奇妙な静けさ。
息苦しくなるような、重い圧迫感。

なんだ――?
なんだ――?
何が起こる――?

しばらく呆然としていたIさんの頭に、突然、激痛が走った。

それは、これまで経験したことのない程の痛みだった。
まるで、雷にでも打たれたかのような、強烈な痛み。
立っていられなくなり、そのまま前のめりに崩れ落ちた。

ドタッ。

ああ、この音だったのか――。

Iさんは、そのまま意識を失った。

§

§

Iさんは急性の脳梗塞だった。

不幸中の幸いだったのが、普段なら朝まで決して起きないはずの彼の妻が、その日に限ってちょうど目を覚まし、『ドタッ』という物音を聞いて、事態にすぐ気がついたことだ。

おかげで、すぐに救急車が呼ばれ、適切な処置を受けたIさんは、半年の療養とリハビリの末、こうして元気に、私と酒を酌み交わしている、というわけだ。

§

§

「じゃあ、例の物音や後ろ姿の男の幻は、将来的にIさん自身に起きることだった、というわけですね?」

その部屋は『過去に何かあった場所』ではなく、『未来に何か起きる場所』だったわけだ。
これでもしIさんが亡くなったりしていたら、『未来型事故物件』とでもいうのだろうか。
不謹慎なことを、私はこっそり考えた。

「でもこれで、今度こそ謎が解けたわけですか。
じゃあ、もう引っ越しは考えていないんですね?」

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