先輩のお守り
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
長編
2023/12/17
05:04
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僕はそう聞くと、
「ああ見たよ、はっきりとな。そうだな…、何というか、目を見開き、血走っていて、よだれも出てだような気がする。髪の毛はボサボサで、年齢は20代にも見えるし50代と言ってもおかしくなかった。」
少し間を開けてAさんは話を続けた。
「見たと言っても、その時間は多分3秒とか5秒とか、せいぜいそんなもんだろう。でもその時は凄く長く感じたんだよ。人を恨んだり憎んだりすると、鬼の形相というか、人間はあんな顔をするのかと思うと、自分はそうなりたくないと思ったんだ。それからは人を悪く思わないようにしたんだ。」
「そんな事が…。」
僕がそう言うと
「ああ、そうそう、君にいい物を見せてあげる。」
Aさんはそう言うと、財布を取り出して中からファスナー付きの小さなビニール袋を取り出して僕に手渡した。
「これがその時の物だよ。」
ビニール袋には10本ほどの「藁」が入っていた。
「もしかして、これって…?」
「ああ、さっきの話の藁だよ。」
「ええ!?で、でもなんでこんな物を…?10年も前の物でしょう?」
「何と言っていいのか…、自分への戒め、とでも言えばいいのかな…。だから、これをお守りとしていつも持ってるんだ。」
「はあ、そんなんですか…。」
僕はそう言うのがやっとで、それ以上何と言っていいのかわからなかった。
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