朽屋はなぜか下を向いたままになっていた。
男「いつもはソロキャンだけど、こうして人に囲まれて過ごすのも悪くないもんだね」
男がウイスキーを飲みながらしみじみと言う。
寒い中であたる焚火は本当に暖かく、四人はしばし楽しく歓談した。
白鳥「私たち、K女学園の生徒なんです。で、本当は今日は強行遠足の日で、この湖をゴールに目指していたはずなんですけど・・・途中で事故をおこしたクルマをみつけて・・・」
そこまで言うと、朽屋が手を差し出してきて、話を留めた。
朽屋がちいさな声でなにかぼそぼそと言い出した。
「オジサン・・・あなた本当にいい人みたいだ。こうして自然と戯れて、とても文化的に過ごされておられて・・・正直うらやましい」
男「うん?そうかい。・・・ありがとう」
朽屋「でも、私たちもそろそろ帰らないと、待ってる人たちが大勢いるんで」
男「ほう、もう行ってしまわれるのですか?・・・また寂しくなります」
白鳥「えっ、朽屋先輩、帰る方法わかったんですか?」
朽屋「白鳥さん、亀井さん。よかったらオジサンのために歌ってあげてくれない? 讃美歌405番『神ともにいまして』・・・」
白鳥「それって・・・別れの曲ですよね?」
朽屋「そう・・・。オジサン、あなた、よく思い出してください。あなたは大事なことを忘れています。おそらく去年の11月、あなたはいつものようにこの湖でキャンプをした後、クルマで峠道を走っていた。そして、あなたは運転を誤って橋のたもと付近から、崖下までクルマごと転落して亡くなった・・・」
「えっ!?」白鳥と亀井が驚く。そしてオジサン自身もなにか大変なことを思い出したかのように顔色が変わる。
男「そうだ・・・そういえば・・・運転してたら突然なにかの動物が横切って・・・それを避けようとしてボクは・・・」
男は顔面蒼白になっていた。
朽屋「あなた、もう半年以上前に亡くなっているんです・・・思い出されましたか?」
男「そういえば・・・そんな気が・・・気が付いたときにはもう体が挟まれて身動きもとれず・・・そうか、ボクは死んだのか・・・。でも、じゃあ、今のボクはなんなんだ?」
朽屋「ここはすべてあなたの残した思念が作りだした結界の中・・・。11月のある日の記憶が作り出した思い出の世界なんです」
男「そんなことって・・・」
朽屋「あなたの遺体は私が確認しました。そのウイスキーの入ったスキットルボトルも遺体の側で確認しています。もしかして運転中も少し飲まれていたんではないですか?」
男「そうですか・・・それはお恥ずかしいモノを見られてしまいました・・・」
朽屋「あなたをこのまま放置すると、恐らく道連れを呼び込む地縛霊となってしまいます。今ならまだ間に合います。大人しく浄化を受けていただけますか?」
白鳥と亀井は抱き合ってガタガタ震えていた。
男「そうでしたか・・・いや、わかりました。人に迷惑をかけないのがソロキャンパーの誇りです。道ずれを呼び込む地縛霊など・・・私の本意ではありません。どうか、浄化とやらをよろしくお願いします」
朽屋「わかりました。それではこれから浄化の儀式をさせていただきます。あなたの遺体のことも丁重に葬らせていただきます」
男「お手間を取らせます。・・・今日、あなたたちに会えて本当に良かった」
朽屋「それじゃ、讃美歌をお願い・・・」


























kamaです。朽屋瑠子シリーズ第14弾は高校時代の「強行遠足事件」です。
ジャンルを不思議体験のところに入れたので、「創作なのになんで体験なんだよ~」と思う方もいるかもしれませんので一応弁明させていただくと、朽屋瑠子シリーズは楽しめるロマンホラー要素をもちつつ、ボクの書いた怪談を解決していく役目を持っています。で、今回のお話はボクが高校時代に体験した「強行遠足2年目の死」という実体験を朽屋たちに追体験してもらって、おもしろおかしくしてもらおうと考えた企画なので、ベースはボクの体験なのでいいかな、と思ってこのジャンルにしました。みなさんもぜひ、エンタメとして気軽にお楽しみください。
実体験をベースにしたようですが、車の中に白骨を見つけたのですか?
よかったです。休み時間に読んでてあぶなく泣きそうになりました。
今回は、友情、協力、諦めない、色々な要素が盛りだくさんで面白かったです。
↑kamaです。コメントありがとうございます。楽しんでいただいてなによりです。
相棒の貴澄頼子が、高学年になるほど辛辣になって行くところも、シリーズ通して見るとおもしろいですよ。お楽しみください。
よくわからないんですが、頼子ちゃんって幽霊じゃなっかったんですか、、、
頼子さんって幽霊じゃなかったけ?