悲しき自動販売機

事務所の前に１台の古びた自動販売機がある。
うちの自販機と言ってもいいくらい近くて便利なのに古くて汚らしいので利用したことがない。

ジュースや缶コーヒーならまだし水はちょっと…。
外観が汚らしいからなんとなく不潔な感じがして、水なんて特に濁ってそうで。

偏見もここまでくると病気だ。天変地異が起きたとき真っ先に弱音を吐くのはこのボクだ。

とは言え、機能的には缶コーヒーとジュースが各種揃ってて、お汁粉やコーンポタージュなんかもある。
あとはミネラルウォーターが２か所。ま、特別これといって特徴のないごくふつうの自販機だ。

その日は体調が悪く薬を飲むため水が必要だったのだけれど、ちょうど水を切らしてて。

水道の水でとも一瞬思ってはみたもののまたまた偏見発動で却下。
渋々事務所前の自販機で買うことにした。

２か所あるうちの１つのボタンを押した。
出てきたのはジュースだ。

「あれ？間違えた？」もう一度同じボタンを押した。

またジュースだ。

隣のミネラルウォーターのボタンも押してみた。

今度は缶コーヒーだ。

試しにジュースのボタンを押すとちゃんとジュースが出てきた。

缶コーヒーのボタンを押すとちゃんと缶コーヒーが出てきた。

変な勢いでお汁粉、コーンポタージュまで押しそうになったが、いやいやもういいだろ。これ以上買ったらルーレット付の自販機で当たりが出るまで意地になって買い続ける酔っぱらいのサラリーマンだ。

この自販機は早い話がミネラルウォーターだけが出てこない不思議な自動販売機だということだ。
学者が冷静に分析結果を発表しているみたいに言っているが、心は穏やかではない。不思議なんてもんじゃない。これは怪奇現象？怪異現象？いったい何がどうなってるんだ。

翌日、業者さんに来てもらった。

自販機の中を開けると２か所ともミネラルウォーターがちゃんと入っていた。

業者さんが試しに２か所のミネラルウォーターをそれぞれ押すとちゃんと１本ずつ出てきた。

「問題ないようですね」と業者さんたちは不思議そうな顔で帰っていった。