導かれて

「間一髪とはいえ私はどこも怪我してないし、学校も大ごとにはしたくなかったみたい。悪質なイタズラって事で有耶無耶のまま卒業の時期になっちゃった。」

あっけらかんとノゾミさんは言うが小学生当時はやはり心に傷を負い、しばらく学校に行けない日々が続いた。

今でも玄関のドアスコープを覗くのは怖いと言う。

誰の仕業か心当たりは無かったんですか？と俺が問うと
「全然無いよ！誓って言えるけどわたし誰かをいじめたりとかしなかったし、恨まれるような事は何もしてないよ。」
と否定する。

そこで今度は、ノゾミさんの身に何かあって得するような人は居なかったですか？と聞いてみた。

するとノゾミさんは眉間にシワを寄せながら虚空を見つめ記憶を探るような表情をし、やがてポツリと「……サヤカ…」と呟いた。

サヤカ、というのは隣のクラスで同じ女子バスケ部に所属していた子だと言う。
当時はそのサヤカとレギュラー争いをしていた。
結局ノゾミさんは部活どころでは無くなったのでレギュラーの座はサヤカが手にした訳だ。

確かに彼女に動機はありそうではあるがしかし
…。

「あ、でもサヤカが犯人ってのはそれこそ絶対あり得ないからね。誰が見ても熱血スポーツ少女って感じの子だったし、それに私が学校行けるようになって最初に労ってくれたのもサヤカなんだよ。」

コーチやチームメイトからの信頼も厚く、小柄な身体で人一倍ひたむきに努力し、試合に勝てば誰よりも声を上げて喜ぶ、快活さを絵に描いたようなサヤカ。
後輩の指導にも熱心で慕われていたらしい。

そのサヤカがドス黒い感情を胸に秘めて狭く暗い密室にじっと潜み、ノゾミさんが来るのを今か今かとドライバーを握りしめながら待ち続けるなんて陰湿なことをするのは絶対考えられない、
とノゾミさんは力強く断言した。

サヤカはノゾミさんとは別の中学に進み交流はそこで終わったがSNSでの情報によれば現在、公立の小学校で教師をしているとのこと。

「…ノゾミさんがそこまで言うならそうなんでしょうね。」

と、俺が気の抜けた返事をした所で休憩時間は終わり、俺とノゾミさんは仕事に戻った。