その間Sはベッド横にあるソファーに座り、携帯をいじっていた。
それから半時間くらいが過ぎて退屈しだした彼は、何気に浴室の方に視線をやる。
ベッド横の仕切りガラスの向こうにある浴室に、裸のN美の後ろ姿が見えていた。
ただ少し様子が変だ。
電気もつけず暗闇の中、シャワーを頭から浴びながらピクリとも動かないのだ。
不審に思ったSは立ち上がると、浴室へと歩く。
寝室との仕切りのガラスドアを開き、改めてN美を見た。
そしてハッと息を飲む。
そこにあるのはいつもの白く張りのある身体などではなく、ぱさついた肌と腹回りにはでっぷりと肉が付き尻は少々垂れていて、まるで疲れ果てた中年女のようだ。
そんないつもと異なる身体の彼女がバスタブの手前に立ち頭からシャワーを浴びながら、ただじっと立ち尽くしている。
Sは恐る恐る声をかけた。
「N美、、、」
だが彼女は背中を向けたままうつむき、全く反応しない。
とうとう彼は背後から近付きシャワーを止めると、真横から改めてN美の横顔を見た。
そしてまた衝撃を受ける。
その額には幾筋もシワがより頬は弛み、あちこちシミがあった。
彼女はうつむき一点を見つめながら、何かぶつぶつと独り言を呟いている。
「おい、何しかとしてるんだよ?」
そう言ってSが彼女の肩に手を乗せた時だった。
突然N美が彼の顔の方を見ると両手でその首を掴み、グイグイと力をこめだした。
その瞳には黒目がなく真っ白だ。
「おい何すんだよ、止めろよ!」
そう言いながらSは彼女の手首を掴み外そうとするが、その力は思った以上に強く、2人はそのまま後方に倒れこむ。
浴室のタイルの上でN美は彼に馬乗りになると、その両手にさらに力をこめだした。
その顔に満面の笑みを浮かべながら。
苦しさに耐えきれなくなったSは思わず力任せに彼女の頬を平手打ちする。
その勢いでN美は横手に倒れると、そのまま動かなくなってしまった。
慌ててSは彼女の傍らに寄り添うと、改めてその顔を見る。
そこには、いつものN美の顔があった。
どうやら彼女は気を失っているようで、SはN美を抱えると寝室に戻りベッドに寝かせた。
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ねこじろうさんの作品は本当に引き込まれるし、いつも楽しみにしてます。
ありがとうございます。
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彼女は、とりつかれてしまったのか((( ;゚Д゚)))