無名の山
投稿者:Nilgiri (3)
そんなAの言葉に続けて、Bはまるで推理を披露するかのようにすらすらと語った。
「別に驚くことじゃないだろ。昨日雨だったのに、屋根が届かない場所にあるこの饅頭は一滴も濡れてない。そもそも山の中の供え物なんて普通すぐに動物が食っちゃうだろ。何日も前の饅頭がずっとあるなんて不自然だと思わないか?」
確かにそういわれてみると、そうかもしれないが、腑に落ちない気持ちがぬぐえない。
「でも、だからと言って何が入っているか分からない饅頭を食うなんて、おかしいだろ。吐けよ。食わない方がいいって。」
Cがなおも、Bに強く言い募るが、BはCの動揺なんて知らんぷりで饅頭を1個すべて食べてしまった。
「A、お前ものんきに見てないで、Bに何か言えよ。」
いつもBとふざけているCが、見たこともない様子で慌ててAの肩をたたくが、AはCや俺と違ってBの行動にそれほどショックを受けていないようだった。
「まぁ、本人が大丈夫って言ってるなら、大丈夫だろ。」
「お前、冷たすぎじゃねぇ?」
「いや、さっきおばあさんが、大黒屋の紙袋持っていたの見たから、おばあさんが饅頭供えたんだろうし。」
「え?さっきの婆さん、紙袋なんて持ってたっけ?」
Cのいう通り、俺も大黒屋の紙袋をおばあさんが持っていたかどうかは記憶になかった。だが、Aが見たというなら持っていたのだろう。優しそうなおばあさんだったし、理由はわからないが、変なまんじゅうをお供えするような人には見えなかった。
とはいえ、さっきのおばあさんが供えていった和菓子屋の市販の饅頭だとしても、躊躇なく食べてしまったBには多少の気持ち悪さを感じたが。結局Bは、残りの1個もペロッと食べてしまい、Cもしまいには“Bは、やっぱすげーわ。”と呆れたように言っていた。
その後ハイキングコースに戻り、しばらく歩いて小高い目的地にたどり着くと、周囲の山々を見下ろす景色は中々きれいなものだった。
「なんにもないけど、来てみれば、そんなに悪くないじゃん。」
田舎者の俺たちにとって山の風景というのは珍しいものではないが、こうして改めて高いところから見下ろすと、それなりにすがすがしいものだ。普段より空気も若干美味いような気もする。
「じゃあ、飯くうか。」
俺たちは近くにあった古びた木のベンチに座り、C母が持たせてくれたおにぎりをかじる。
「さっきの東屋、ここに作ればよかったのにな。」
「まじで、あんなところにある意味わかんないわ。」
「祠だって裏にあったら意味なくね?」
「邪神を祭ってたりしてな!」
バカでかく握っていあったおにぎりをあっという間に食べ終えてしまって、俺たちはしばらくその辺で各々自由に過ごしていた。AとCは、何やらキャンプ用コンロを持ってきていたらしくお湯を沸かそうとあれこれしていた。俺は、周辺をデジカメで撮影しつつぶらぶらしていて、BはAとCにちょっかいを出しつつお菓子の袋を開けていた。
そのあたりをあちこち撮影していると、見たことのない足の長い蜘蛛を見つけた俺は、その不気味な歩行を録画していた。背後でBが俺に声をかけてきた。
「俺ちょっとその辺にガール探しに行くわ。」
いつものBのへらへらした口調に、俺も何気なく
「おー。見つけたら、連れて来いよー。」
とか適当に返事をしておいた。どうせ、その辺に用でも足しに行ったのだろうと思ったからだ。まさか、この時のことを延々と後悔し続ける羽目になるとも知らずに…。
その後、俺はつい動画の撮影に夢中になってAやCから離れて少し藪の中に入っていた。
「おーい。そろそろキャンプ場に行こうぜ。」
Cから声をかけられて、ようやくおにぎりを食べたベンチのあたりに戻ってくると、AとCしかいなかった。
「あれ?Bと一緒じゃなかったのか?」
Aに聞かれるも、むしろ俺もBが二人と一緒だと思っていたから、あたりをきょろきょろ見回す。
「いや、なんかさっきガール探しに行くとか言ってたけど、まだ戻ってなかったか?」
「あいつ、まだガールをあきらめてなかったのかよ。」
AとCのあきれた様子に俺も苦笑した。
読み応えありました。
おもしろかったよ。
B君は家出じゃないね。
突然行方不明になり、事故、事件関係ない場合は違う世界に行ってしまったのかもしれない。
背景が目に浮かび、釘付けになりながら読ませて頂きました。
後味まで含めて、とても不可解で不思議な話でした。
変な因縁話がないのがとてもリアルで読みふけってしまいました。
面白かったです!
b君は結局家出なのか、遭難なのか、考えさせられますが、リアルに有り得る話で楽しく読ませて頂きました。恐さよりも不可解でしたね。
面白かったです。
Aは性格上、この異常すぎる事件に関わるのはヤバいと思って割り切ったのか
本当はあの祠の事について知っててBの行方も知ってたのか
それとも超常的な何かに取り憑かれて警告したのか。
何れにせよ真面目とされてたAがあんなふうに友達に対して冷淡になったのは興味深いですね。