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不思議体験

Nilgiriさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

無名の山
長編 2023/05/28 14:41 25,881view
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「ここで飯食う?」
「いや、上に行くまで我慢するだろ、普通。まだ11時半だぞ。」
「じゃあお菓子食う?」
「せっかく山頂がゴールなんだから、そこまで我慢しろよ。」
適当にしゃべっていたのだが、Bは退屈したのか一人東屋から出てぶらぶらとその辺をうろついていた。東屋の外側を眺めていたかと思うと、ふいに東屋の裏側を覗き込んで何かを見つけたらしい。

「おい!」
「どうした?」
「まんじゅうがある。」
「は?」
うっそうとした木々に囲まれた東屋の裏に“まんじゅうがある”なんて言い出したBにつられて俺たちも東屋の中から裏側を覗き込んだ。

すると、中に入った時には気が付かなかったが、東屋の裏には隅に小さな石の祠のようなものがあり、その前に白い饅頭が2つ皿の上に供えてあったのだ。
「こんなところにお供え物か。」
「あ、もしかして、この祠があったから東屋作ったんじゃねぇ?かなり古そうじゃん。」
Cがいう通り、石の祠は真新しい東屋とは違い、苔も生えて大分古そうな見た目だった。
「でも、こんなところじゃ誰も気づかないよな。」
「そんなことないだろ。お供え物があるってことは、誰かが最近置いたんだろうし。」

 奇妙なことに、そんな会話をしつつ不思議とその白い饅頭から視線が離せなかった。A・B・Cも吸い寄せられるように饅頭を見つめている。滑らかな表面の饅頭は、ついさっきここに置いたばかりのように艶やかで、そのふっくらとした中身には、あんこがぎっしりと入っているのを想像させた。ただの饅頭にもかかわらず、手に取ってかぶりつかれるのを待っているかのように、この上なくうまそうに見えたのだ。

 そして、その時Bが突然驚きの行動をとる。皿に置かれた饅頭を手に取って、しばらく観察したかと思うと一口食べたのだ。
「B!」
俺とCの2人が同時にびっくりして声を上げた。

「そんなもん食うなよ。いつの饅頭かわからないぞ。」
珍しくCがぞっとしたように言う。
「大丈夫だって。別に何ともないし。むしろ美味いぞ。お前も食うか?」
そういってBが半分に割った饅頭を差し出したが、Cはドン引きした様子で受け取らなかった。

「お前、大丈夫か?腐ってない?」
美味そうだとは思ったが、いつの饅頭かわからないものを口にする勇気なんてなかった俺は、ビビりながら訊ねる。
「平気平気。お前ら驚きすぎだろ。それにこれ、たぶんさっき供えられたばかりだと思うぜ。」
やけに自信ありげにBがいうので、俺とCは首をひねった。
「まぁ、今日おかれたのは間違いないだろうな。多分、入り口ですれ違った夫婦がおいていったんだろう。」
と、Aまでもが知っているようにいうので、俺は驚いた。

5/9
コメント(6)
  • 読み応えありました。

    2023/05/28/20:08
  • おもしろかったよ。

    2023/05/30/22:17
  • B君は家出じゃないね。
    突然行方不明になり、事故、事件関係ない場合は違う世界に行ってしまったのかもしれない。
    背景が目に浮かび、釘付けになりながら読ませて頂きました。

    2023/05/30/23:31
  • 後味まで含めて、とても不可解で不思議な話でした。
    変な因縁話がないのがとてもリアルで読みふけってしまいました。
    面白かったです!

    2023/05/31/23:17
  • b君は結局家出なのか、遭難なのか、考えさせられますが、リアルに有り得る話で楽しく読ませて頂きました。恐さよりも不可解でしたね。

    2023/06/11/16:26
  • 面白かったです。

    Aは性格上、この異常すぎる事件に関わるのはヤバいと思って割り切ったのか
    本当はあの祠の事について知っててBの行方も知ってたのか
    それとも超常的な何かに取り憑かれて警告したのか。
    何れにせよ真面目とされてたAがあんなふうに友達に対して冷淡になったのは興味深いですね。

    2023/07/15/04:46

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