ホームレスから盗んだガラケー

「のう、兄ちゃん。中ぁ、見たんか？え？」

俺はガラケーの中身を見るために充電して電源を点けてそのままにしていた。
しまった！と思うには遅く、素直に何度も頷く俺。
おじさんは「…はぁ」とため息をつきながら何やらボソボソとお経のように呟き始めたので、俺はどうにかしてこの場から逃げ出せないかと挙動不審さながら辺りを見る。
最悪な事に、おじさんは玄関までの通路を塞ぐように立ってて、俺はと言えば腰が抜けたように座りこんでる。
加えて、ここは二階だし俺に逃げ道はなかった。

ちなみに、このおじさんの背丈は180センチを超えてて、ヒョロガリの俺じゃ到底敵わないと思わせるほど肩とか腕周りが服越しに見てもがっしりとしている。

さすがに殺されはしないだろうが、ボコボコにされる未来を覚悟する。
するとおじさんは「兄ちゃん」と朗らかな笑顔で俺を呼ぶ。
言われるがままに従って顔を上げると、おじさんはこう続けた。

「兄ちゃんのケータイ見せてくれ。それでお互い様や。のう？」

おじさんは自分の趣向が俺にバレたからなのか、俺のケータイ（スマホだけど）を要求する。
俺としては、中身を見られるくらいで窃盗を許してくれるならこの上ない申し出だった。
殴られなくて済むかもと思い、「ど、どうぞ」とズボンのポケットにしまってたスマホを出して、おじさんの前に差し出す。
おじさんはニカッと笑ってスマホを受け取るとしばらく見つめた後、スマホをひっくり返したりしながら何かを探ってた。

まさかと思い、俺は「あ、あの、画面をタップすれば…」と口を出すと、おじさんは「そうかそうか。スマートフォンってのは使ったことなくての」と笑う。
実はちょっと面白いおじさんなんじゃと思い「…あはは」と釣られて笑う俺。

おじさんは俺に言われるがまま覚束ない手つきでスマホのロックを解除していき、データフォルダを見る。
画像や動画には、友達と撮った写真や面白いものを見つけた時に撮影したものなんかが主流だったが、もちろん、男だからエロ画像もあった。
おじさんは画像をスクロールしていくたびに「ふむ……ほう……はは」と表情を変えていったが、俺は自分の裸を見られてる感覚に陥ってむず痒かった。

「たいしたもん無いのう、兄ちゃん」
「あ、はい、すみません」

これで解放されるのかと思い顔を上げると、おじさんはスマホを持ったまま「じゃあ、電話帳開いてくれるか？」と言う。

「え？」と反応すれば、おじさんは再び顔を近づけて「開いてくれるか？」と凄む。

まるで借金取りのヤクザに詰められてる気分だ。

俺は青ざめながら電話帳を開き、おじさんに手渡す。
すると、おじさんは自分のガラケーを開きながら何やら操作を始めてしばらく無言。
時折、「……これは女か…」とか不穏な事を言うので俺は心の中で電話帳の友達に謝り倒した。

たぶん、おじさんは俺の電話帳の友人たちの電話番号やアドレスを片っ端からメモってたのだろう。
何に使うのかは考えない方がいいと思った。