女の人にはわからないだろうが、男には理想の墓石というものがあって、ある時期からノートにしたためるようになる。
祖父からそのノートを見せてもらった俺は、他の人より早くその時期に突入した。あれは、大学を卒業して社会に出た頃――22歳の頃だ。かなり早かったと思う。同期に話しても先輩に話しても、『理想の墓なんかないよ』とか『先祖代々の墓があるから』なんて言ってた。
社会人とはいっても、まだまだ成熟してないんだと内心で笑ってた。一方の俺は、1年で5冊目のノートに突入した。
描いているうちに綺麗な線が引けるようになって、三面図も上手く描けるようになった。楽しくなって色々な墓石をデザインした。
そこで、俺は気づいた。
絵を描いてるだけではダメだ。実際に作らなければと。
社会人4年目には実際の墓石の5分の1程度の大きさの御影石を取り寄せて、自分で彫るようになった。これがあまりにも難しい。彫りすぎると取り返しがつかないからだ。将来は質のいい高級な御影石を買って、一発勝負で最高傑作を彫ることになるから、若いうちに技術を磨いておこうと思ってた。
でも、なんだかんだで金はかかる。石代もそうだが、道具やそのメンテナンス用品なんかも揃えなきゃいけなかったからな。ついでに、置き場所もなくなる。
だから、墓石を彫る練習が終わったら、美少女墓石を彫って売ることにした。元が取れることはなかったけど、ある程度の足しにはなった。「美少女真数千手観音を彫ってくれ」とメッセージが来た時には、墓石で殴り殺してやろうかと思った。
俺が売ったものを加工して高値で売買が成立しているのを見つけた時も殺意が湧いた。
その時期に作ったものは鋭利な美少女墓石になっていた。その子の髪の毛が刺さったことで、俺は理性を取り戻し、彫り物には気持ちが表れることを学んだ。この経験から、心が落ち着いている時にしか作業をしないことに決めた。
そんな俺も、30年あまりを費やして50代半ばになった。
俺はついに理想の墓石の姿が見えた。
他の奴らがスタート地点に立つのはまだまだ先だが、俺はもうゴールが見えていた。
俺は有り金を使い果たして、念願の高品質な御影石を買い、墓石を彫り始めた。
じっくりと、ミスをしないように慎重に5年の歳月を費やし、ついに理想の墓石――妙姿地蔵尊型墓石、またの名を『半裸美少女地蔵型墓石ぐぜみちゃん』――を完成させた。
地蔵といえば錫杖と宝珠と僧衣だ。
俺の半裸美少女地蔵型墓石ぐぜみちゃんには左手に宝珠、右手には錫杖を持たせた。そして、僧衣ははだけているが、横からはちゃんと隠れるようにしておいた。
ぐぜみちゃんの正面には、台座から伸びる、開いた巻物を模した板を彫り出した。墓石だから、墓碑銘を刻めるようにするのは当然だし、見せちゃいけない部分を隠せるから一石二鳥だった。
好きな角度がいくつもあったから、完成記念撮影もした。誰にも見せない、俺だけの宝物になった。
その写真を眺めていて、着色もしておこうと思った。
地蔵といっても女の子だ。化粧――ほどではないけど、要所には色があった方がかわいく見えるのは間違いない。
必要なのは、黒と赤と――桜色。
霊園への墓石設置申請では、前後左右からの写真と寸法を併せて送付し、許可ももらっていた。
ところが、設置まで終わった後で霊園の職員から撤去を求められてしまった。
俺の人生が否定されたようなものだから、俺だって引き下がれなかった。
向こうの言い分は「お子様もいらっしゃるのに、こんなものは設置できない」だった。
俺は書類を提出して許可をもらったし、前からも横からも見えないことを力説したが、職員は「斜めから見えるでしょ。ダメですよこれは」と取り合ってくれなかった。
仕方なく、業者に追加料金を払って家に届けてもらうことにした。
帰宅した俺は失意のどん底だった。俺はぐぜみちゃんを壊して、俺も死のうと思った。ぐぜみちゃんの頭に俺の頭をひたすら叩きつけ続けた。
どのくらい続けたかわからなかったが、ぐぜみちゃんが俺に語りかけてくれた。






















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