【より子ちゃん事件】-中学生 朽屋瑠子-
投稿者:kana (210)
イタリア人技術者だったベアトリーチェの父親は本国からの命令で、シンガポールに潜水艦基地建設のための出向が決まり、妻と子を置いて一路単身赴任の途に就いた。
が、乗っていた日本海軍の艦船がシンガポール沖で撃沈され、消息不明となってしまった。
哀れに感じたダヴィデ神父は、残された二人にはとくに目をかけていた。
国内では栄養失調の者はもちろん、チフスや天然痘などの病気も蔓延し始め、連日の爆撃に
よる攻撃もあり、ダヴィデ神父の学校も、すでに学校として機能しなくなっていた。
敷地内は野戦病院のような様相を呈しており、そしてベアトリーチェにとってまたしても悲劇が起きた。母親も病に倒れ、帰らぬ人となったのである。
両親が亡くなってから、ベアトリーチェはそれまで以上に教会で祈りを捧げるようになって
いた。その姿はまるで淡い光に包まれているように見え、近くにいる人間を癒すかのように
感じられた。
「ベアトリーチェには何か不思議な力が宿ったように見える・・・」
ダヴィデ神父がそう語っていたのを、のちに学院長を務める女性が手記に綴っている。
その姿に何かしらの奇跡を感じたダヴィデ神父は、ベアトリーチェを養子として迎え入れ、
教会の一室で保護することにした。
神父が孤児救済のために養子をとることはそれほど珍しいことではなかった。
天涯孤独となったベアトリーチェにとっては、父と同じイタリア人の神父がそばにいるのが
心強かった。いつしか二人はまるで本当の親子のようになっていった。
幼いながらも献身的に看護の手伝いをするベアトリーチェ。
かわいらしい彼女が看護をすると病室内には久しぶりの笑顔が戻った。
そして不思議なことに傷病の回復率もよくなり、ベアトリーチェは病院内で一躍「天使」と呼ばれるようになっていった。
事態が急変したのは1943年(昭和18年)9月の事である。
イタリア軍が降伏し連合国側についたため、突如として日本国内のイタリア人たちは敵国人扱いされだしたのだ。
厳密にはイタリアの独裁者ムッソリーニはその後ドイツ軍に救助され、北イタリアに再びファシスト政権を樹立する。日本はこのサロ政権(小共和国)をイタリアの正式な政府として承認したため、国内にいるイタリア人に対して新ファシスト政権に忠誠を誓うか『宣誓署名』を義務付けた。これに従うものは良しとするが、従わなかった者たちは敵国人とみなされ、捕虜収容所に抑留されることとなった。
ダヴィデ神父はこれを拒否し、抑留されることになった。この時、神父はベアトリーチェがハーフで、見た目にも日本人的であったことから、日本人女性であった当時の学院長にベアトリーチェを託し、自分だけが収容所へ行くことにした。
ダヴィデ神父はこの時ベアトリーチェとの別れ際に、
「今日からは日本人として振舞い、決して自分の本当の名前を明かしてはいけない」
と、言いつけた。イタリア人と知られたらどうなるかわからないからだ。
ベアトリーチェは泣き叫んだ。またひとりぼっちになってしまう。
連行される神父の乗るクルマを教会の窓からいつまでも見ていた。
その後、ベアトリーチェはできるだけ人前に姿を見せないよう、
教会の奥で隠れるようにして生活をした。
kamaです。先ほど投稿させていただいた「より子ちゃん」の裏で起きていた一大事件を書かせていただきました。まず先に「より子ちゃん」を読まれてからこちらを読むと、面白さも倍増かと思います。
またこの「朽屋瑠子」シリーズも今回で4作目となりますので、合わせて他の朽屋瑠子シリーズも読まれると世界観が広がると思います。
あと、今回27ページもの大長編となってしまいました。頑張って読んでくれた方、ありがとうございます。・・・これだと誰も怪談朗読してくれないだろうから、そのうち自分でやろうかな・・・と思ってます。
まるで吸い込まれるような感じで、最後まで拝読させて戴きました。続きを早く読みたいです。
↑kamaです。27ページもあるのに読んでいただき感謝です。
朽屋瑠子シリーズは今後、短編をいくつか出しつつ、たまに長編みたいな、そんな感じで出して行こうと思ってます。
kamaです。
涼君が押し入れの鉱石採集セットを見つけてより子ちゃんに再開するシーンに、
『ローズクウォーツが抜け落ちた鉱石採集セットのように、
涼の心にもぽっかりと隙間が空いているようだった。』
という一文を追加させてもらいました。
・・・詩的でしょ?
まさに、涼君の鉱石セットのくだりがホロリと来ました。短編物も拝読させて戴きましたが、瑠子シリーズはスリルがあっていつまでも読みたくなります。
↑kamaです。ありがとうございます。どこかホロリとくるシーンがあるのって、いいですよね。怪談は怖い話ばかりじゃないと思いますし。
奇々怪々に「怖いボタン」以外も欲しいです~。
また楽しみにしていてくださいね。
ボクはより子ちゃんが泥だらけになっても涼君を追いかけるとこでホロリと来ました。
より子ちゃん単独の話だけ見ていると、子供の誕生日になぜ教会から出られないより子ちゃんが家まで来たのかわからなかったけど、これでつながりました。
↑kamaです。ありがとうございます。朽屋瑠子シリーズは、ボクの作品の裏で起きてる解決編みたいな構成で、オムニバス的に楽しめるようにしてます。これからもよろしくお願いします。
今まで投稿話の中で27ページという最長の話を投稿されたkama先生お疲れ様です。ところで今回の話も場合によっては改稿などで短くなるでしょうか?
↑kamaです。ありがとうございます。改稿の可能性は無いとは言えませんが、今のところは「やり切った感」が強いので、あったとしてもたぶん1年後とか、あるいは改稿しないか・・・という感じです。そうですね・・・やるとしたら戦争の歴史を説明している部分をもう少しはしょるとか・・・ですかね。でもあの部分もより子ちゃん親子がいかにして生涯を閉じたかの部分なのでバックボーンとしては残しておきたい気もしますし。まぁとりあえず今は次の作品を出すことの方を優先したいと思ってます。ありがとうございます。
色々な方の長編作品を読んでいた際にkana様のクッチャルコシリーズを見つけ、初投稿から読ませていただいているのですがこの話で先に読んでいた作品と繋がってとてもテンション上がりました…!!
本当に楽しく読ませていただいてます!!ファンです!!!