H歯科医院
投稿者:ねこじろう (147)
そう言いながら彼は必死に抵抗しようとしたが、看護師の力はかなり屈強で、あっという間に彼の手足と首を革のベルトで固定した。
それから佐伯の髪の毛を掴み思い切り後方に引っ張って顔を上向きにすると、嫌がる彼の鼻をつまみ顎先を掴んでぐいと引っ張り、無理やり口を開けさせようとする。
た、助けて、、、
悲痛な訴えも空しく、僅かに出来た彼の口の隙間に医師は器具を素早く滑り込ませて、左の奥歯をガチリと挟むと思い切り力を込めた。
「アガガガガ、、、」
佐伯のくぐもった叫びとともに、ミシミシという嫌な音が聞こえ始める。
今まで体験したことのない強烈な痛みが彼の口内を直撃した。
一気に心拍数はマックスになり、次の瞬間、
佐伯は意識を失った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
…………
蒸せるような草いきれとズキズキという奥歯の痛みで、佐伯は目が覚めた。
彼は延び放題の雑草に囲まれた所に倒れている。
未だ半分朦朧とした意識のまま、佐伯はゆっくり立ち上がった。
辺りをキョロキョロ見回すと、そこはただ雑草だけに覆われた更地のようだ。
見上げると、空には朱色に染まった鰯雲が彼方まで拡がっている。
どうやらもう夕刻のようだ。
─夢?、、、夢だったのか?
彼は何がなんだか分からず、左の頬を片手で押さえながらフラフラ歩きだした。
するとすぐ前方の草むらに、乗ってきた自転車が横倒しになっているのに気付く。
佐伯は近づきハンドルを掴んでそれを起こそうとした時、
傍らに大きめの古びた木片があるのに気づいた。
彼は思わず自転車を倒してしまう。
木片の表面には黒文字で「日蔭歯科医院」と書かれていた。
彼は呆然としてその看板を眺めていた。
そしてふと顔を上げると、
前方に2つの人影が見える。
人影はどんどん近づいてきているようだ。
それは妻の未奈と見知らぬ初老の女性だった。
未奈は佐伯の姿を見つけると満面の笑みを浮かべながら、
「あ~、やっと見つかった」と言ってホッとした顔で歩み寄り彼の両手を握る。
kamaです。とても楽しく拝見させていただきました。
文章うまいですね。小説読んでるみたいでした。
ラストのオチは別の落ち方もつけられそうですが、おもしろかったです。
なんならこの家族シリーズをまた読みたいです。
ヤバ医者ですね。気をつけましょう。
怖いですね。残留思念のようなものでしょうか?