H歯科医院
投稿者:ねこじろう (147)
そして「いったいどこに行ってたのよ?」と少し怒った表情で佐伯の顔を覗く。
彼は家を飛び出してから歯科医院に行った話をした後、
「それで気が付いたら、この雑草地に寝転がっていたんだ」
と不思議そうな顔をしながら話し終えた。
すると突然もう一人の女性が口を挟んだ。
「確かに昔、ここに歯科医院がありましたね」
佐伯が訝しげな顔で女性を見ると、慌てて未奈が説明しだした。
「ああ、ごめんなさい。紹介してなかったわね。この方ね、住宅街の自治会会長さんをされている中村さん。
一緒にあなたを探してくれていたのよ」
未奈の話の後、中村さんが佐伯に深々とお辞儀をする。
佐伯も慌てて頭を下げると、
「すみません、ご迷惑お掛けして、、、ところで、さっきおっしゃった嘗てあった歯科医院の話を詳しく聞かせていただけませんか?」と言って中村さんの方を見た。
銀髪をまとめた上品な顔立ちをした中村さんは「はい」と一言言った後、淡々と語りだした。
「この場所に日蔭歯科医院が忽然と建てられたのは平成の半ばくらいだったと思います。
確か貧相な顔をした日蔭という中年の男性医師と看護師の大柄な奥さんの二人で、切り盛りされていました。
当時近くに歯科医院がなかったということもあり、開院した当初はかなり繁盛してました。だけど1月経ち、3ヶ月経ち、どんどん患者さんの数が減っていったんです」
「どうしてですか?」
佐伯が尋ねる。
中村さんは一つため息をつくと、再び続けた。
「めちゃくちゃな治療をしていたようなんです。
ろくすっぽ検査もしなかったり、患者が痛がっているのを無視して強引に治療したり、挙げ句の果ては虫歯ではない健康な歯を間違って抜いたり、麻酔もかけずに抜歯したりしていたみたいです。
それであまりにも酷いということで、住民の一人が地元の歯科医師会に問い合わせたところ、驚くべきことが分かったんです」
ここで中村さんは一呼吸置いて佐伯と未奈の顔を交互に見ると、また口を開いた。
「医師会にこちらの医師の氏名を照会したところ、そんな者は登録されていないということだったらしいのです」
「え!」
佐伯と未奈は同時に驚きの声を出した。
「つまり無免許で医療行為をやっていたということですか?」
未奈の問いかけに中村さんは深くうなずくと、続ける。
「日を待たずして医院は閉院しました。
そして警察が本格的に動きだし、ある日突然刑事が医院を訪ねたそうなのですが、、、」
kamaです。とても楽しく拝見させていただきました。
文章うまいですね。小説読んでるみたいでした。
ラストのオチは別の落ち方もつけられそうですが、おもしろかったです。
なんならこの家族シリーズをまた読みたいです。
ヤバ医者ですね。気をつけましょう。
怖いですね。残留思念のようなものでしょうか?