迫りくるもの
投稿者:take (96)
私が小学校4年生の時の話です。
近所にあった書店は規模が小さく、あまり品揃えはよくありませんでした。
欲しい本がない時は、少し離れたところにある大きな書店まで足を伸ばしていました。
途中に大きな開発グラウンドがあり、いつも子供達が野球やサッカーなどを楽しんでいました。
梅雨どきのある日、その書店で目当ての本を購入した帰り道のことです。
雨が止んだばかりで、曇天もようの薄暗い夕刻でした。
グラウンドに差し掛かりましたが、遊んでいる子供はひとりもいません。
大小いくつもの水たまりができていて、中心部には池のような巨大なものがあり、
それを近くで見たくなった私は、グラウンドに足を踏み入れました。
泥が跳ねないように注意しながら、大きな水たまりのそばまでいきました。
その時の記憶なので怪しいですが、体感では10m近くあったと思います。
とはいえ、ただの大きな水たまりです。
すぐに飽きて戻ろうとした時、
私が入ってきた反対側の方から、パシャン、と水音がしました。
パシャン、パシャン、パシャン……
それは連続して起き、だんだんと近づいてきます。
誰かが悪戯して石でも放り込んでいるのかと思いましたが、周囲には誰もいません。
大きな水たまりの、私から一番遠い位置でバシャ! と水飛沫が立ちました。
姿の見えないモノが迫ってきている!
私は踵を返し、もと来た方向へ走り出しました。
バシャ! バシャ! バシャ!
私の後を追うように水音も早くなります。
グラウンドから、アスファルトの道路へ走り出て、振り返りました。
パシャン……
一番近くにある水たまりが水飛沫をたて、静かになりました。
まるで人が立っているみたいに、ゆらゆらとふたつの波紋が広がっています。
姿の見えないモノはグラウンドから出ず、私をじっと見つめているようでした。
慌ててその場から走って逃げ帰りました。
泥濘のグラウンドを全力で走ったので、ズボンも服も泥だらけになっていました。
家に帰った私は散々母に叱られましたが、本が汚れていないことに安心したのを覚えています。
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。