奇妙な隣人
投稿者:ねこじろう (149)
お前みたいに一方的に叱ると、ルミが可哀想だよ。
ルミというのは娘さんだろうか。
推測するに、娘さんのことで奥さんと話している最中のようだ。
しばらくすると突然ドタバタという足音がしたかと思うと、ガチャンガチャンという皿が割れるような音か続いた。
どうやら激しい夫婦喧嘩が始まったようだ。
気性の荒い奥さんみたいだ。
これ以上聞くのはちょっと後ろめたかったから私は立ち上がり、シャワーを浴びることにした。
翌朝。
月曜は指定ゴミの日だったため、私は部屋着のままゴミの詰まったゴミ袋を一つ片手に持ち、渡り廊下に出る。
すると同じタイミングで、お隣の廣瀬さんもゴミ袋を一つ持って出てきた。
昨日と同じ黒のスーツに黒のネクタイ姿だ。
さすがに違和感を感じた。
この人は家でもこの格好なんだろうか?
廣瀬さんは開け放たれた玄関ドアの前に立ち、室内に向かって「ちょっと、ゴミ出してくるからな~!」と声をかけている。
背後に立つ私に気づくと、あわてて
「ああ、田代さん、おはようございます。」と挨拶をしてきたから、挨拶を返す。
そして2人一緒に、アパート前にある指定場所まで歩いた。
「ごみ捨てはボクの担当なんですわ」
と言って笑いながら廣瀬さんは、電信柱の傍らにゴミ袋を置いた。
既に5、6個が山積みされている。
私もそこにゴミを置くと、「娘さんはまだ学生さんなんですか?」と尋ねてみた。
すると廣瀬さんは「ええ今年高3で、来年は大学受験で大変なんですわ」と言うと、
「お恥ずかしい話なんですけどね、嫁が家事嫌いで、今はボクが全てやってるんです」と言って照れ臭そうに頭を掻いた。
それから私は廣瀬さんと四方山話に花を咲かせながら、アパートの部屋に戻る。
その後は出勤の準備をして、再びアパートを後にした。
その日仕事が終わりアパートに帰り着いたのは、午後8時頃だった。
軽くシャワーを浴び部屋着に着替えると、ビールを飲みながらスーパーで買ったビーフカレーを食べる。
その後ソファーで寛ぎながらテレビを観ていた時だった。
突然バタンバタンというけたたましい物音がしたかと思うと、続けて廣瀬さんの悲痛な叫び声がしてドキリとする。
─ミナヨ、お前、娘に何てことを!
ヒトコワの完璧な怖い話ですね。
怖いってより悲しい話だ。きっと自責の念に駈られて自らを憎んで憎んで殺してしまったんだよ。