奇妙な隣人
投稿者:ねこじろう (149)
2月のとある日曜日の朝。
前日までにようやく荷物を片付け引っ越しを終えた私はお隣さんへの挨拶のため、隣の玄関前に立っていた。
新居は私鉄沿線沿いにあるアパートの2階にある、角部屋だ。
家賃のわりに部屋数が多いのと、通勤の便から選んだ物件だった。
203号室ドア横にある呼び鈴ボタンを押す。
ピンポ~~~ン
心地よいドアチャイムの音が鳴り響き、しばらくしてから「はい」という声がしたかと思うと、ガチャガチャと世話しなくロックが解錠され、ドアの隙間から男の姿が現れた。
黒髪を七三に分け黒縁メガネをかけた、小太りで色白のちょっとオタクな感じだ。
年齢は40歳前後だろうか。だとしたら私とあまり変わらないということになる。
上下黒のスーツに白のワイシャツ、黒のネクタイをしている。
葬式にでも出掛けるところだったのか?
隙間から少し不審げな顔を見せている男に向かって私は「昨日引っ越してきた田代と申します。
今後ともよろしくお願いいたします」と言い一礼する。
すると男はホッとしたような顔でドアをキチンと開くと、ようやく口を開いた。
「ああ、新しく越してきた方ですね。
ボク、廣瀬と申します。
こちらこそ宜しくお願いします」
挨拶を終えた私がその場を離れようとすると、
「お一人でお住まいなんですか?」と追いかけるように声がする。
「はい」と言って向き直ると、男は
「良いですねえ、自由で。
僕なんかほら、嫁とわがままな一人娘がいるじゃないですか。だから、いろいろと大変なんですわ」
と言い、さらに続けようとしたところで「ああ、嫁が呼んでいるみたいなんで」と言い残し一礼すると、あたふたとドアを閉じた。
その日の夜。
夕食を終え、壁際のソファーに座りテレビを観ていた時だ。
壁の向こうから何やら人の話し声がするのに気づいた。
安アパートのためか、隣の生活音は割と筒抜けのようだ。
いけないこととは思いながらも、テレビのボリュームを下げる。
しばらくして朝方話した廣瀬さんの声が聞こえてきた。
─まあまあ、そんなに言うなよ、ルミも自分なりの考えがあるんだから。
ヒトコワの完璧な怖い話ですね。
怖いってより悲しい話だ。きっと自責の念に駈られて自らを憎んで憎んで殺してしまったんだよ。