重たい足取りで井戸へ近づくと、再びあの激臭に耐えながらも井戸の後ろに回り込み、半開きになった石蓋に体重をかけ、井戸の中を見ない様に気を付けながら三人掛かりで一気に押し込んだ。
骨達はこうして暗闇に逆戻りする事になるが、それと同時に外界から閉ざされた事で激臭は段々と緩和していった。
しかし、これで安堵した訳でない。
徐にBが太陽光の下に躍り出ると、先ほど掴まれたと言っていた腕を何度も確かめる。
そして、酷く上擦った声でこう言うのだ。
B「なあ、これ落ちねえんだけど!」
Bの許へ駆け寄って見てみれば、確かに水で洗い流したと言うのに手痕の名残が見て取れた。
表皮が剝脱した様なその痕は、Bが幾ら擦っても落ちる事は無かった。
しかも、鼻を近づければ、あの井戸の中身と同じ腐敗臭が漂う。
Bに付けられた手痕は何のだろう。
そもそもこの井戸の中の骨は誰が何の理由でここに遺棄したのだろう。
やたらと空気が重たい小屋の前で、俺達は物音が止んだ井戸を見据えたまま黙り込んでしまった。
暫く放心した後、俺達は小屋を後にした。
道中、Bの手痕が落ちないものか貴重なペットボトルをもう一本消費して洗い流してはみたものの、やはりタトゥーの様に張り付いた手痕はシミの様に頑固で落ちる気配は無い。
それでも感染症を恐れて持参していたアルコール度数の高い酒で消毒の真似事はしたが、それでも消えない手痕を見てBは何処か浮かない顔をしていた。
日が暮れ始めていたので日没までに寝床を探す必要もあった俺達は、例の廃村に戻り何処か寝泊まり出来そうな場所が無いか民家を一軒一軒内見して回った。
途中、仙人に出くわしたらどうしようかと思ったが、幸運にも仙人と遭遇する事も無く、適当な空き家を見つけてそこを寝床に使わせて貰う事にした。
A「何か頭いてえ」
窓ガラスが半分無くなっていた廃屋で野営の準備を進めていると、突然Aが頭痛を訴え体をよろつかせながら座り込む。
そして、手で頭を抱え込むとそのまま俯き加減に顔を下げた。
この時、異常があったBでは無く何故Aが…という気持ちもあったが、精神的な疲労だろうかと俺は言い知れぬ不安を口にしない様に努めた。
Aがただ一言「頭が痛い」と訴えてからは俯いたままの態勢で何やらブツブツと唱え始める。
内容は聞き取れないが、その異様な光景は話しかけるのを躊躇させる雰囲気だったので、俺は黙々とキャンプ用のミニストーブを使ってレトルト食品を温めていた。
この日のメニューはレトルトのチキンカレーと乾麺を混ぜた疑似カレーうどん。
それを人数分よそって手渡すが、Aだけは余程頭痛が酷いのか反応が弱く、近くの机に置いておく事にした。
Bはと言えば、腕の手痕以外は割と元気な様子で、カレーうどんを受け取るなり飲み込む様に吸い上げていった。
俺「そんな腹減ってんの?」
特に意味を込めずに出てきた言葉だったが、Bは「うるせえ、うまいのが悪い」と平時の調子で返してくれたので、井戸の事を忘れたかった俺としてはBの食欲に救われた気持ちだった。
ただ、その左腕には僅かに手痕は残っている。
夜の帳が下りた頃、体調が良くなったAが漸く夕飯を食べ始めた。
心配していたが、突然体が楽になったから食欲が出てきたとだけ話し、カレーうどんの他にも、携帯食料を幾つか頬張っていた。
























すげえ
めっちゃ読み応えありました
こういうのもっと読みたい
これ最高
描写がすごい
これほん怖とかの実写で見てみたいな
想像で吐き気がやばかった。怖かった。
漢字で書いた方が読みやすい言葉と、ひらがなで書いた方が読みやすい言葉がある。って文学者が言ってた。
本当に理解しているエンジニアは説明の時に専門用語を使わない。それと似ている
読み応えあるしきちんと怖い
大学二年生で平成後期生まれって書いてるから飛び級でもしたのか?と思ったけど後半って書きたかったのかな?
俺も気になった
2023年1月に投稿で夏休みの話ってことは、どんなに若くても2022年夏に大学二年生=2003年(平成15年)生
平成後期生まれとは言わないわな
細かいかもだけど、こういうとこで1回気になると一気に没入感無くなるからもうちょい設定練っといてほしい
↑
わかる。設定に引っかかると萎えるよな
俺は「排他的であればあるほど研究意欲が沸き立つ」で「オカルト好き」なのに完全に他人任せで調査に関わらない先輩が気になった
翌日迎えに来れるなら別の重要な調査と被ったとかじゃないだろうし
語り手達に状況を再確認させる人物がストーリー的に必要だったのは分かるけどちょっと萎える
いいねこの話
おもしろかった。