白龍の棲む池
投稿者:YoyoYoyoY (52)
短編
2022/12/24
09:03
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昔、名水巡りが好きだったので、清らかで美味しい水の湧き出る池に行きました。古民家の並ぶ集落の中に、ひっそりと存在するその池は不思議な水気で満ちています。
小雪がちらつく夕暮れ時でした。古民家からは、夕餉の匂いが立ち上り平凡な一日の終わりを惜しむかのようでした。
池の中には、ニジマスが放たれ縦横無尽に泳ぎまわっていました。恐ろしいほどに清らかな空気です。
「この池には、入ってはいけない気がするね」と妹が言いました。
「たぶん、入ってはいけないと思う、ここには白龍がいると思う」私も目に見えない結界のようなものがあると感じました。
名水を汲み終え、車に戻ろうと思った瞬間、突風が吹き、差していた傘が飛ばされてしまいました。
落ちた場所は、池の中です。妹と2人で茫然と立ち尽くしました。
「どうしよう、あんなに遠かったら取りに行けないわ」
傘は水の上に、ぷかぷかと浮いています。
しばらく眺めていると、傘はゆっくりとこちらに動いて来ました。
突風は止んでいたので、とても不思議でした。そのまま、桟橋の近くまで来たので、手を伸ばして傘を掴みました。
池の水気が濃くなったような瞬間、小雪が大雪に変わりました。
「帰ろう」と妹が言いました。
私は池のそばにある、小さな祠に手を合わせ立ち去りました。
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