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意味怖(意味がわかると怖い話)

件の首さんによる意味怖(意味がわかると怖い話)にまつわる怖い話の投稿です

氷の下
短編 2022/11/16 23:49 2,869view
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 20年ぶりに冬に里帰りをした私は、久々に車でその湖にやって来た。
 当時、こんなに車道に雪がなかった気がする。自然の湖でスケートが出来たのだから、思い込みでもない筈だ。
 森が終わると、雪にすっかり覆われた湖が広がっていた。
 私は、湖の畔で自動車を停めた。
 筈だった。

 みしり、と音がしたかと思うと、車が傾いた。
 エンジンをかけ、バックしようとする。
 だが、アクセルを踏んでも手応えがない。
 車は後部座席側を下に、垂直になっていく。
 沈んでいる。
 雪に覆われた氷が割れたのだ。
 こんなところまで水が来ていたのか。
 後部座席の窓の外はもう水中だ。
 運転席のドアを開けようとする。
 開かない。

 大きな音がして、後部座席の窓ガラスが割れ、水が流れ込み始めた。
 一層早く車が沈み始める。
 ドアが開かない。
 そうだ、割れて水圧の差がなくなれば開く。
 息を思い切り吸い込んで、ドアの窓を蹴り破った。
 同時に水が一気に車内に流れ込む。
 ドアレバーに手をかけると、あっさり開いた。

 車外に飛び出す。
 水の温度は氷とほとんど変わらない。身体が縮こまっていく。
 上に泳ごうとするが、方向感覚が一瞬分からない。
 頭が湖底に向いているのに気づき、何とか頭を湖面方向に向ける。
 雪もそれほど厚くはないのだろう。上全体に明るさがある。
 上へ泳ぐ。
 泳ぐ。
 服がまとわりついて重たい。

 泳ぎつつ服を脱ぐ。
 どんどん体温が奪われていく。
 呼吸が限界になっていく。
 光が、ようやく近付いて来た。
 近付いて、さらに寄って、そして。
 固いものに触れた。
 氷だ。
 氷に覆われている。
 光がより強い場所が見えた。
 落ちた割れ目だ。
 全力で泳ぐ。
 光が強くなっていく。
 そうだ。
 もうひとかき。
 指先が水から出る直前。

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コメント(2)
  • ご冥福をお祈りします。

    2022/11/17/21:04
  • 絶対誰かやったやろ

    2024/12/23/11:17

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