間違いファックス
投稿者:件の首 (54)
昨年の秋、私は残業をしていた。
広いオフィスに私独り。
寂しいと思うかも知れないが、誰かに邪魔をされる事のない、一番仕事がはかどる時間帯だった。
業務の目処が付き、ホッとしたところでコピー機が動き始めた。
ランプの点滅から、それがFAXの受信である事が分かった。コピー機は複合機で、FAXも兼ねていたのだった。
通常、こんな時間のFAXは明日にまわして見る事はない。
だが、その時は妙に胸騒ぎがした。
排紙トレイに出たA4の受信文書には、文字はなかった。ただ、黒い点がぽつぽつとあるだけだった。
ヘッダを見ると、送付元は得意先だった。
「裏表を間違えたか?」
紙をよく見たが、裏写りした文字の痕跡もなかった。
明日連絡を入れるか、今一度迷っていると。
また、FAX受信のランプが点滅した。
排紙トレイに出た受信文書を取り、ざっと見ようと思った時。
「うわっ!?」
私は思わず声を上げ、用紙を取り落としていた。
用紙には、人間の手が映っており、その横には「たすけ」の文字があった。
その時私は理解した。
先ほどの黒い点は、血だと。
直ちに警察に連絡を入れた。
警官は、得意先のオフィスで、血の海の中でコピー機にもたれるようにして息絶えた社長を見つけた。腹を刺され、死因は出血多量だった。
コピー機のガラス面には、血が残っていた。
警察の見立てでは、犯人が逃亡した後、虫の息の社長が助けを求めるために、最初に目についた相手に送信したのだろう、との事だった。
証拠品としてFAX文書は警察に提出した。
その後も警察が捜査を続けているが、今の時点で犯人は逮捕されていない。
犯人は社長がうちにFAXを送った事に気付いているのだろうか。
それに気付いて、何かしら犯人に繋がる証拠を伝えていると勘違いされたら。
いつかFAXから、犯人の脅迫メッセージが届くような気がして、不安でならない。
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